山では死ぬこともある…片道切符にならないための7つの基本 スナフキンの言葉からも山登りの核心を学ぶ【ふくいのそと遊び】

たのしいけれど危険も潜む登山。何が危険を呼び込むのでしょうか=槍ヶ岳
地図とコンパスで現在地の確認できるよう習慣づけを
日帰りの予定でもヘッドランプはザックにしのばせて
すぐにカロリーを摂ることができるようかんやチョコレートを。いろいろな種類があり結構おいしい。
左はエマージェンシーシート、右がツエルト
山は面倒。でも面倒を凌駕する熱意があっていろんな備えができるのです=燕岳

今回与えられたテーマはずばり「山で死なないために」。

「山登りはたのしそうだけれど自然が相手だから危険ですよね」 「遭難事故のニュースがまた」 「気をつけてくださいね」 お店での接客時によく耳にする言葉です。

そのとおりです。 山はたのしいだけでは無事に登って下りてくることができません。

大切なのは、なにが危険かを知ること。そしてその危険を呼び込まないための対策をどうするかです。 登山におけるリスクマネジメントの基本をみていきましょう。

①転倒しない

颯爽とスピード速く歩く姿は格好のよいものですが、転倒して動けなくなってしまっては意味がありません。山道ではこけない!ケガをしない!

②道迷いしない

山では迷わないことが第一。迷ってからの対処よりも迷わないようにすることです。目指す山、ルートを把握しましょう。「人がたくさんいる山だから」「スマホのアプリがあるから」は危険です。登山とは「行き当たりばったり」ではなく、自分でコースを決め、時間配分等を考え、実行するものです。 それでも迷ってしまったら、現在地の確認ができていたところまで戻ります。「進めばどうにかなる」はどんどん迷い込んでしまい危険です。「迷ったかも」と思ったら、できるだけ早い時点で引き返しましょう。※

そのためにも、地図とコンパスでつねに自分の現在地を確認することを習慣づけましょう。つづけていると準備段階での地図読みから地形を予測し、実際に歩いているときは目に入ってくる情報から行き先や地形の起伏等の予測ができるようになり、迷うこと自体が少なくなります。 ※とはいえ、気持ちの焦りも危険です。「迷ったかも」と不安になったら、まず立ち止まり、地図や経過時間を確認します。意識して深呼吸して、冷静に確認しましょう。

③体力をつけましょう

①の転倒もその多くは脚力不足からです。すっかり疲れ果ててしまうと思考が停止し、②の道迷いのもとである注意力・判断力の低下をまねきます。体力は安全な登山の基本です。

④登山計画書はかならず作成する

しつこいですが、登山は「行き当たりばったり」ではなく、自分で地図を調べてコースを決め、時間配分等を考え、そして実行するものです。準備と計画こそが安全登山の要です。 山行計画書を作成することは、その作業のなかで必然なことです。

⑤日帰りでもヘッドランプを

登山用のランプは頭部に装着し、両手が自由につかえるヘッドランプが基本です。 「泊りの山なら必要だろうけど、日帰りでも?」と質問されることがありますが、必ず持っていってくださいとお応えしています。

山での日暮れは早いです。樹林で覆われたりすると日没時間よりもずっと早く暗くなります。できるだけ15時には下山完了するように計画をたてましょう。 思わぬアクシデントで下山が遅れると、日はどんどん陰ってきます。街灯や人家の灯りがない山道は本当の真っ暗です。山道は未舗装のでこぼこ道。木の根っこや岩、ぬかるみなどがあり、照明がなくては歩行もままなりません。 ※視界を確保するためにも光量は200ルーメンくらいしっかりあるものがおすすめです。

⑥非常食と緊急装備

たのしみに持っていく山のおやつは行動食。非常時に備えて携行するものが非常食です。 日帰りの山には大げさだと思われますか? 日帰りの山でも行動時間が予定を超過したり、ときには雨などで無理な渡渉をさけて山中で一夜を過ごすこともあります。そんなときに備えての非常食です。非常用ですから行動食などとは区別して、パッキングも別にしておきます。

非常時にお湯が必要なものや調理に時間を要するものは不向きです。そのままで即時に食べることができるもの、すぐにエネルギーになる糖度の高いものを選びます。 気軽な日帰りの山であっても、チョコレートや一口サイズの羊羹といったものを少量でも余分に持ち歩くようにしてください。 ⑤のヘッドランプは必須の緊急装備の代表的なものです。そのほかに必要なものを考えるときはビバーク※を念頭においてみると具体的に考えやすくなります。 もちろん目指す山域・ルートによって異なりますが、無雪期の日帰り登山だとすると、ツェルト(コンパクトな緊急時用のテント)やエマージェンシーシート(薄いシートの保温グッズ)が筆頭にあげられます。いずれも雨風をしのぎ、体温の低下をふせぐものです。自分自身を守るだけでなく、ケガや病気の方の手当てや救援待機時に身体を覆って保護保温します。非常に小さく軽いものが各メーカーから出ています。ぜひ携行なさってください。 ※予定していない山中泊のこと。

⑦道具は使いこなせてこそ

⑥のツェルトやエマージェンシーシートも、「買うには買ってリュックの底にずっと入れているけれど、実際には広げたことがない」なんてお話を伺うことがままあります。 いつも申しあげているのですが、道具は使いこなせてこそ、です。せっかく持っていっても、いざという時に使えないのではただの重りです。そして非常時には気持ちもあせるもの。なんてことのない普段で使い慣れてこそ、非常時に役立てることがかないます。 緊急装備にかぎらず、たとえばお手元のリュックに「これは何のため?」と思うループやフックはありませんか。山の道具にはすべて役割があります。無駄なものを省いてなお残ったものだけです。いま一度お手元の愛用品の仕様や使い道をあらためてみましょう。

こちょこちょと申しあげてきましたが、いかがですか? 山の安全のためというなら、リスクマネジメントとして備えなくてはいけないことは数限りなく、もっともっと続きます。「小うるさいことを言うなあ」「なんだか面倒くさい」とお思いの方もあるかもしれません。

そうです。山は面倒なんです。

  その「面倒」を凌駕する「山にいきたい」があってこそ、地形図を読みこみ、ルートを考え、食糧計画を組み、装備の点検をし、天候を何日間にわたって考察するといった「面倒なこと」に取り組むことができるのです。

山への熱意の不足は備えの不足に直結します。 計画を前にして下調べや準備が面倒だと思うのなら、立ち止まって考えましょう。

なぜその山、そのルートに行こうとしているのか。

  自分を知りましょう。

「いまの自分」のできる範囲、体力を知ることは安全な登山における大前提ですが、それよりも自分が本当にしたいことは何か。

誘われたから。 みんなが行くから。 そんなものは自分が本当にしたいことではありません。

山登りはよく人生に例えられますね。 自分が本当にしたいことは何か。それを見失わないことは、山において、人生において、忘れてはならないことです。

自分が本当に行きたいと思う山なら、どんなに他事が忙しくても、下調べは緻密に、備えは十分にするもの。 つぎの山の計画は自分が心から望んでいるものか。 その熱量こそが安全な登山の基(もとい)です。

今回は結びに代えて、私が10代のころから心に留めている言葉を二つご紹介したいと思います。

『寝床につくときに翌朝起きることを楽しみにしている人は幸福である』カール・ヒルティ

『大切なのは、自分のしたいことを自分で知っていることだよ』スナフキン

(登山用品店「遊山行」=福井県福井市田原1丁目8-2 服部佐和子)

 

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