2児のママが「保活」で挫折…仕事辞めて歩み始めた医師の道 36歳の医学生「経験無駄ではなかった」

学生スタッフとして関わる地域医療の取り組みについて、担当教授と意見を交わす平井倫子さん(左)=福井県永平寺町の福井大学松岡キャンパス

 結婚、出産を経て一念発起し、小学生の子ども2人を育てながら医師を志し福井大学医学部で学ぶ女性がいる。平井倫子さん(36)=福井県福井市=が同大に入学したのは31歳のとき。泣く子を抱っこしながら勉強した夜もあった。4月からは6年生となり、冬には医師国家試験を控える。「遠回りしたかもしれないけれど無駄ではなかった」とこれまでの道のりを振り返り、母として奮闘してきた経験を生かし患者に寄り添える医師を目指している。

 平井さんは藤島高校を卒業後、ゲノム(全遺伝子情報)に興味を持ち京都大学農学部に進学した。同大生命科学研究科修士課程を経て、同大医学研究科で研究補助員として勤務。生殖の研究に携わるうちに医学に興味を持つようになった。2011年に結婚。2人の娘に恵まれ子育てに仕事にと忙しい日々を送っていた。

 医学部の再受験を考えたきっかけは15年、第2子を保育所に入れるための「保活」の挫折だった。当時住んでいた京都市は待機児童が多く、相談に訪れた市役所の職員は冷たかった。当時の平井さんは週35時間勤務。「フルタイムでもないのに保育園なんて無理でしょう」と取り合ってくれなかったという。

 子どもを預けられないなら仕事を続けられない。不安に駆られた平井さんは「仕事を辞めるくらいならもう一度学び直して再出発しよう」と気持ちを切り替え、京都に夫を残し、2人の子を連れて実家がある福井市へのUターンを決めた。

 子どもを保育園に預けて受験勉強し、2年かかって18年に福井大医学部に合格した。このときわが子は2歳と5歳。実家のサポートを受けながら大学に通った。テスト勉強や課題のリポートは、子どもを寝かせる布団の中にパソコンを持ち込んでやったこともあるという。

 大学の学びは「どれも新鮮で楽しい」と充実した日々を語る。母親業も手を抜かず、小学生になった子ども2人の毎日の宿題やピアノ、バイオリンの練習は厳しくチェック。休日は一緒にゲームを楽しむなどして過ごしている。

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 昨年から臨床実習が始まり、大学病院内の各科や県内の病院を見て回る中で「産婦人科や救命救急に興味が出てきた」という平井さん。30代半ばでの挑戦になるが「ここまでの道は自分を形成する糧で無駄ではない」と話す。

 社会人や母親としてさまざまな経験があるからこそ「患者さんの背景までもおもんぱかる医師になれるはず」と強い思いを口にし「これまで応援してくれた家族や子どもたちに堂々と胸を張れるような医師になりたい」と目を輝かせて話していた。

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