「こんなにテストが順調なのは初めてかも」SF23に得た“感度”を武器に、4度目の戴冠目指す【SF開幕直前インタビュー/山本尚貴】

 4月8〜9日に富士スピードウェイで開幕を迎える2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。今季は新型車両『SF23』と新たなスペックのタイヤが導入されるほか、コロナ禍で下火となっていた海外からの参戦ドライバーも増え、昨年とは異なる戦いが展開されそうだ。

 すでに3月上旬には、鈴鹿サーキットで2日間の公式合同テストが行われた。ただし、新型車両採用年にも関わらず開幕前の走行機会はこの2日間のみ。この短い準備期間でどれほど新型車両とタイヤをモノにできているかが、2レース制で行われる開幕ラウンドおよびシーズン序盤のポイントともなりそうだ。

 開幕直前、上位争いが期待される何名かのドライバーに現状の手応えと序盤戦の展望を聞いた。2013、2018、2020年と3度、国内トップフォーミュラのタイトルを手にしている山本尚貴(TSC NAKAJIMA RACING)は、2日間のテストで好感触を得たようだ。SF23を手懐けるのに苦労するドライバーも多いなか、その好調ぶりが周囲からも警戒される存在となっている。

■体制変更も追い風に

──2022年の自身のシーズンを100点満点で採点すると、何点になりますか。山本:50点くらいかなと思います。良かった点としては、やはり(第7戦モビリティリゾート)もてぎのレースで、NAKAJIMA RACING在籍3年目にして、ようやく1勝することができたことが挙げられます。予選でもポールポジションを獲得し、レースは展開にも恵まれてはいたものの、最後までトップを守り切ることができました。そこに対しては、自分自身に点数をあげてもいいのかなとは思います。

 あとは最終戦ですかね。予選では沈んでしまいましたが、セッティングも変え、決勝ではちゃんとポジションを上げて帰ってこられました。

 ただ、それ以上に悪いところが目立ってしまったシーズンでした。オートポリス、富士、もてぎとシーズン中に3回、接触もしてしまいました。中盤や後方から追い上げないといけないレースをしてしまっていたことで、いままで以上に無理しないといけない場面が多くなってしまった、というのも引き金にはなっているかなと思いますし、単純に自分の判断ミスというのもあります。

 今シーズンは前の方でレースをしつつ、そういった判断ももう少し繊細にできるようにしないとこの先はないと思っているので、反省して切り替えて臨みたいと思っています。

──昨年12月のルーキーテストのときから、エンジニアさんが変更になっていますね(山本車は新たに岡田淳エンジニアが担当に。昨年まで山本を担当していた加藤祐樹エンジニアは移籍加入した佐藤蓮に付く)。山本:もちろん、2年間一緒にやらせてもらった加藤さんに問題があったわけではありません。2年間、しっかりとやらせてもらいましたが、僕としては結局目標としていた結果を残すことができなかった。いろいろなことを学ばせてもらったのですが、逆に加藤さんの良さを引き出せずに終わってしまったという申し訳なさもあります。

 とはいえ、もうあと何年もレースがやれるわけではないですし、自分の中でも切羽詰まった状況であることは否めないので、ちょっと環境を変えさせてもらって……『最後の追い込み』ではないですけど、ちょっとがむしゃらにやらせてもらいたい、というのが自分の中でもありました。

 岡田さんとは初めてですが、また新たな発見もありますし、勉強にもなっていますので、僕にとっても環境が変わったことは良かったですし、蓮と加藤さんの組み合わせから得た情報もちゃんと共有して、2台で効率の良いクルマ作りもできています。

──伊沢拓也“監督”も新たに加わりましたが、セッション中に伊沢さんから無線が飛ぶことはあるのですか。山本:走行中はもちろんですし、走行していないときも常にやり取りはあります。(鈴鹿テストでも)実際に足を動かして周囲の状況を確認しに行ってくれて、『あそこのチームは、このタイミングでニュータイヤ入れてそうだよ』といったことを見て・伝えてくれるので非常に助かっています。

 ドライバーは、ピットに帰ってきてもタイミングモニターしか見ることができません。その『コクピットの中の情報』だけだと量が乏しくて、自分が“迷子”になりやすのですが、そこに必要な情報を的確にくれるので、自分も焦ることなく、組み立てがうまくできるようになったかな、というのは感じますね。もちろん、クルマの調子が良い・悪いという大前提はあるのですが。

TCS NAKAJIMA RACINGの(左から)山本尚貴、伊沢拓也監督、佐藤蓮

■『感度がしっかり出せている』という自信

──そのクルマのお話ですが、SF23のキャラクターについて、テストではどのように感じましたか?山本:自分が想像していたよりも、(SF19から)あまり変わらないという感じです。事前の情報だとかなり変わるのかなと思っていたのですが、それに比べればかなり普通に走れたと感じています。

──リヤの軽さなどを訴えるドライバーもいますが、山本選手の場合は当てはまらないですか?山本:それぞれに違うベースセットがあり、同じ状態で走行がスタートしているわけではないので、セッティングが違えば感じ方も違いますし、フィーリングに関してはいろいろな言葉が出てきて当然なのかな、と思います。

 自分たちが用意していたセッティングに対しては、正直、最初はすごくバランスがいいわけではなかったのですが、いま思うと『セッティングを変更しても感度の出る範疇』にはいたし、そこが一番大きかったかなと思います。自分が感じていること、そしてそこからリクエストした変更に対する感度が、良い方にも悪い方にもちゃんと出てくれたので、クルマはすごく作りやすかったですね。それがテストで調子良く走れたひとつの要素なのかなと思います。

──テストではロングランも好感触でしたか?山本:そうですね、そもそもショートランで調子が良くないと、ロングランをする余裕がない状態になってしまいます。去年はそんな状態だったのですが、今シーズン(のテスト)に関しては中古タイヤでも新品でも、ショートランに関してはずっと上位にいられましたし、セッティング変更の感度がしっかり出てくれたので、予定どおりロングに移行できました。

 ロングランでもショートランと変わらずに、比較的気持ち良く走らすことができたので……あまり浮足立たないようにしてはいますが、14年間やってきて、こんなにテストが順調に行っているのは初めてかもしれないですね。あくまで流れだけですし、周りが何をやっているかも分からない状態ですが、それ以上に『自分たちが用意していたプランどおりに行っている』ということが自信になっていますね。

──昨年も開幕前のテストでは、タイムで見れば好調そうな瞬間はありましたが、それとは流れ的にも違うということでしょうか。山本:はい、意味合いが全然違いますね。一昨年も昨年も、そういった“瞬間”があるだけで、ずっと調子が良かったわけではなかった。たまたまうまく走れた瞬間が、ピンポイントであっただけなのですが、今回のテストに関しては“瞬間”ではなくて、調子がいい期間が長くあったと思っています。

 まぁ「オフシーズンに調子が良いクルマは、シーズンに入ると痛い目に遭う」というのがみんなの中ではセオリーとされているので(苦笑)、そういう意味では少し怖い部分もあるのですが、本当に『感度がしっかりと出せている』というのが、いまはすごくいい雰囲気だなと感じています。

──『ややオーバーステア気味でよく曲がる』というSF23のキャラクターが、山本選手の好みに合っているのではないか、とも推測できるのですが……。山本:……どうでしょう(笑)。多少の『好みのバランス/バランスでない』はあるとは思うのですが、調子のいいクルマがあれば、速く走れる人は速く走れるものだと思います。

 そういう意味では、考えて用意してきたいまのクルマのパッケージは、自分が速く走らせられる範疇にはいるので……別にすごいオーバーだ、アンダーだ、というのはとくに感じていませんし、『自分に合っている』というよりは、『いま用意しているセットアップが合っている』のかなと思います。

 ただ、シーズンに入れば気温も路温も変わってきますし、(テストの結果が)開幕ラウンドや第3戦の鈴鹿に直結するかというと、そうではないところがレースの面白さであり、難しいところですね。

──開幕ラウンド、そして2023年シーズンへの意気込みをお願いします。山本:NAKAJIMA RACINGで勝つということに関しては去年クリアできたものの、目指しているのはチャンピオンを獲ることなので、今シーズンはしっかりとチャンピオンを意識して開幕戦から戦うというのが、自分の中のターゲットです。

 常に勝つレースをし続けたいし、常に上位でゴールし続けないとチャンピオンにはなれないので、そういった強さ・しぶとさを出しながら、一年を通じて常に上位で戦うことを目指して、チームと一緒にレースをしたいと思います。

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING) 2023年スーパーフォーミュラ公式合同テスト 鈴鹿

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