ムツゴロウさん死去

 東京での会社員時代、家族で出かけた山歩きの途中、3歳の娘さんが虫に刺されてひどく泣いた。それが後の自然派生活の出発点だった、とインタビューで振り返っている。「自然を身に浴びて生活しないと、心が育たないのかもしれない」と考えたという▲しゃーしゃーしゃー…。独特の声かけが皆の記憶に刻まれている動物たちとの触れ合いは、時にあまりに無防備で無謀に映った。よおしよしよし、を連発する動物たちへの“全肯定”の姿勢はあらゆる責任を自らが引き受ける身構えでもあったのだろう▲ブラジルでの番組ロケでライオンに右手の中指を食いちぎられてしまった。一度に指を3本くわえられた、全部取られたら原稿が書けない、中指はいいから他は離して、と-と回想している▲手当てが済んだ後、真っ先に案じたのは“加害ライオン”のことだ。あの子に罰を与えないで、処分なんてとんでもない。ペンはその後、左手を添えて握った▲動物王国のムツゴロウさん、作家の畑正憲さんが亡くなった。87歳。ユーチューブの動画発信を最近も続け、動物と向き合う極意などを語っていた▲これも海外での出来事。銀行に行こうとホテルを出た途端に強盗らしい6人組に囲まれたことがあった-と言い、こう笑わせた。「一番怖かったのは人間」(智)

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