【ブログ】2023 全日本ロードレース 開幕戦/“ヘンタイ”カメラマン現地情報

 レース界のマニアック“ヘンタイ”カメラマンこと鈴木紳平氏がお届けするブログ。今回は、4月1日〜2日にモビリティリゾートもてぎで行われた『2023 全日本ロードレース 開幕戦』編です。

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モータースポーツが大好きな皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
2023年 全日本ロードレース開幕戦、“モビリティリゾートもてぎ”であります。
長かったオフシーズンも終わり、各々準備してきた実力を試す開幕戦。レースウィーク中に気になった人・モノを皆さまにご紹介します。

当ブログは、2022年鈴鹿8耐以来の更新となるだけに気合を入れていきたいと思います。
それでは“2023 全日本ロードレース開幕戦編”、張り切っていきましょう!
 
春全開、桜満開のモビリティリゾートもてぎ。全日本ロードレース開幕戦は水曜日搬入! まだまだ、帰宅までの道のりは長いです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

開幕戦のため、MFJによるライダー紹介用写真撮影も行われます。出席簿のように撮影済みのライダーは、各々のクラスに名前を記入していくわけですが、ここでも個性が現れます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

今季ST600クラスにTN45withMotoUPRacingから参戦する羽田大河選手は、ご覧の通りのサイン。これくらいのマインドでなければ、この世界ではやってはいけないということでしょうか。

その羽田選手、木曜日の夕方に行われたMFJによる各クラス全ライダーによる集合写真でも唯一のサングラス姿です。これが受け入れられるキャラクター、周りの環境が素晴らしいです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

ちなみにレースでは、予選で3番手のタイムを記録するも2022年シーズンのペナルティを消化できておらず(Moto 2参戦のため)ピットスタートに。16周のレースでトップと5秒4差の6位でフィニッシュ。次戦SUGOでST600クラスの中心となることは、間違いないでしょう。ゴール後のパフォーマンスも期待です(昨年の開幕戦もてぎでは、パルクフェルメでバーンアウト)。

今シーズンの大きなポイントとしては、JSB1000クラスへの100%非化石由来のバイオレーシング燃料の導入が挙げられます。開幕戦では水曜日の午後にパドックのガソリンスタンド裏で各チームへデリバリー。4日間の走行で1台に付き3缶が用意され、1缶に50リットル、価格は7万円強といったところのようです。ちなみに使用済み缶は、各チームが持ち帰っての処分になるとのことで、チームからは継ぎ足し販売の要望もあるようです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ
2023全日本ロード第1戦もてぎ

バイクを見ていきましょう。まずは昨年のチャンピオンマシン、YAMAHA YZF-R1 2023仕様から。吉川監督によるとバイオレーシング燃料のデリバリーの遅れやYZF-R1がほぼ完成の領域に達していることもあり、車体自体は若干のモディファイにとどまったとのこと。一部未確認情報では参戦車両の形態が変更されるのでは、との憶測もありましたが今年もYZF-R1 ファクトリーマシンで参戦です。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

とにかく一番重要な要素は、バイオレーシング燃料への合わせ込み。ベンチテスト上でバイオレーシング燃料へのエンジンマッピングが決まらないと実走テストが行えなかったため、テスト距離は例年より少なめとのこと。ただ予選ではコースレコードをマークするなど、さすがファクトリーチーム、というところを見せつけました。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

スイングアームも、若干のバランス違いはあるもののほぼ変更はないとのこと。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

スイングアームのピボットシャフト、ステップ付近も見ていきましょう。ピボットシャフトは、なかなか複雑な形状です。材質、形状、締め付けトルクはトップシークレットです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

ヤマハマニアの方には、エンジンスライダーを。ゴム部で衝撃を吸収し、ボルト部でバイクを止める形状でしょうか。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

メーターマウント周辺も見ましょう。ドライカーボンが美しいです。エアインテーク取付け部の形状が変更されているように見えますが、大きな変更はないようです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

ラヂエーターホースには変形防止のカバーが装着されます。年々カバーが大きくなっていっているように感じます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

フロントブレーキは全日本で唯一のブレンボGP4と思われるキャリパーを装着。ブレーキのタッチ、パットとローターの離れ具合を含めて納得出来るレベルにあるため、チョイスしたとのことです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

アルミインゴットから削り出されニッケルメッキを施されたキャリパーは、美しい冷却フィンが特徴。市販モデルのGP4-MSは左右セットで約43万円(パッド付)で購入可能です。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

細かいところですがフロントタイヤカバーの取付け部もドライカーボン製です。バネ下重量ですからやはり軽視は出来ません。こういったところ、さすが“ファクトリーチーム”と感じます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

二輪界でも少しずつですがタイヤの内圧センサーを装着するチームが増えてきています。ヤマハファクトリーレーシングチームもそのひとつ。タイヤ屋さんによるとバイクは、あくまでトータルパッケージが大事。その中でどこまで内圧を重要視するかはライダー・チーム次第。ただタイヤ屋さんとしては、データロガーで正確な走行中の内圧情報を得ることは、とてもアドバンテージになるとのことです。泉谷しげる氏の言葉が思い出されます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

レースウィーク中、ヤマハファクトリーレーシングチームに新入社員メカニックが着任です。齋藤広樹さん22歳。吉川監督の知り合いの紹介での入社となった齋藤さん。レースメカニック経験はほぼなく、バイク屋でメカニックをしていたという経歴の持ち主です。初出勤が現場とは、いかにもレース屋らしいです。ヤマハファクトリーレーシングチームは人材育成、技の伝承もチームの役割のひとつと吉川監督。今年も全日本からMotoGPのヤマハテストチームへ2名のメカニックを輩出したとのことで、今後の齋藤メカニックの成長に期待がかかります。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

■ホンダ、ヨシムラ、新顔のアプリリアもチェック

ここからはホンダ勢を見てみましょう。一部のチームでは新型と思われるニッシン製の4ポットフロントブレーキキャリパーを使用。詳細は伺えませんでしたが、肉抜きによる軽量化と剛性を両立させているキャリパーと推察されます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

2022年の鈴鹿8耐で使用された6ポッドキャリパーの進化系でしょうか。ブレーキホースがクイックリリース化された耐久仕様でEWC(世界耐久選手権)に参戦中のF.C.C TSR Honda Franceの2023CBR1000RR-R Fireblade SPにも装着されています。

JSB1000クラス7号車、Team ATJはフロントブレーキキャリパーダクトにカナードを追加。決勝ではカナードなしのダクトに変更されていました。こういった創意工夫、素晴らしいと思います。3Dプリンター万歳であります。

2023全日本ロード第1戦もてぎ
2023全日本ロード第1戦もてぎ

こちらがカナードなしのバージョン。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

JSB1000クラス38号車、Honda Dream RT SAKURAI HONDAも内圧センサーを使用。ライダーも若手の伊藤和輝にスイッチした今季、タイヤの使い方含め今後の飛躍が楽しみです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

JSB1000クラス、ホンダCBR1000RR-Rのファンネルです。2番3番と1番4番のファンネルの高さが異なる様子が興味深いです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

ヨシムラにいきましょう。伝統のヨシムラ製R-11sqマフラーは出口には、メッシュが追加されています。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

今シーズンから亀井雄大選手を迎えたヨシムラ。タンクには大きめのパットが装着されていました。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

その亀井雄大選手。決して悪いリザルトではないと思いますが、表情は終始厳しいままです。自身、チームとしても目指すところはまだまだ先ということでしょうか。シーズンは始まったばかり、これからの伸びに期待したいところです。早く自身の納得する走りで、周囲の雑音を吹き飛ばしてほしいです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

今シーズンのJSB1000クラスには、1100ccのアプリリア RSV4 Factory 1100が参戦。取材された辻野博さんによるとヨーロッパの潮流が1100ccであることから、エンジン内部を触らないストック状態での参加が条件で参戦が実現したとのこと。そのECUがこちら。Aprilia Corse APX2です。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

ライダーによると走行中の燃料の噴射、エンジンの燃焼、ライドハイトなどをECUが感知しあらかじめ決めた大枠のモードの中で自動的に走行中に調整を行う機能を備えているとのこと。そのおかげもあってバイオレーシング燃料へもほぼ問題なく対応出来ているとのこと。

同等品かどうかは不明ですが、アメリカでは7400ドル(およそ100万円)でECUとハーネスが購入可能のようです。ただやはりデータエンジニアによる調整は必須のようで、もてぎ戦にもフェラーリF1にスカウトされた経歴の持ち主の優秀なデータエンジニアが帯同していたとのこと。

そのアプリリア RSV4 Factoryを走らせるTeam TATARA apriliaのエース、41号車のサミュエル・カバリエーリ選手のマシンには左親指リヤブレーキレバーを装着。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

フロントブレーキキャリパーブレーキダクトはドライカーボン製。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

左親指ブレーキと言えばJSB1000クラス、11号車 KRP SANYOUKOUGYO RSITOHの柳川明選手も左親指ブレーキの使い手です。

2023全日本ロード第1戦もてぎ
2023全日本ロード第1戦もてぎ

リヤのブレーキマスターには2系統のブレーキホースが組み込まれます。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

さて今シーズンからJSB1000クラスに導入されたバイオレーシング燃料。スーパーGTと同様に燃焼しきれなかった燃料がエンジンオイルに混入する事態は、全日本ロードでも変わらないようです。

2023全日本ロード第1戦もてぎ

一説にはオイルに対してガソリンの含有率が一定数を超えるとエンジントラブルの原因となり得るとのことで、各チームセッション終了後にはオイル交換、または一定の量を抜き新品オイルを足す、といった作業を繰り返していました。

また、かなり硬めのオイルで対処したというところもあるようです。ただメンテナンスをしっかりと行えばトラブルは発生しないということが証明された週末でもありましたので、またひとつ大きな一歩となり、世界に先駆けて実証できたのではないでしょうか。

次戦は、鈴鹿8耐トライアウトを兼ねた大会。スポット参戦組が多数(4月6日時点で71台)のため、燃料をどうするかは協議中のようです。ちなみにヤマハファクトリーレーシングチームの鈴鹿8耐復帰に関して。2022年の8耐を見ていてHRCなどと一緒にレースしたい、という気持ちはあるものの一旦参戦を休止すると、その分を取り戻すことは容易ではなく、バイク造り、体制作りもいちからのスタートとなり、参戦するには勝利が至上命題となるため容易に決断は出来ないとのこと。ヤマハファクトリーの8耐復帰は、もう少し時間がかかりそうです。

皆さま、いかがでしたか。ピットウォークも通常通り開催され久しぶりのライダーとお客さまとの触れ合いが戻ってきたのは、とても喜ばしいことです。パドックも解放されています。先ほどの新入社員メカニックではないですが、レースのメカニックをやってみたい、と思う方はパドックに来てお目当てのチームの監督、メカニックなどに話しかけてみてください。話を聞くだけでも得るものがあると思います。

2023全日本ロード第1戦もてぎ
2023全日本ロード第1戦もてぎ

次回のブログは、6月末のスポーツランドSUGO、アジアの若者が集うアジアロード選手権になります。これから世界に羽ばたいていくアジアの若者の生き様、見逃し厳禁です!

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