イーサリアムの上海アップグレードで何が変わるのか? 知っておきたい「ステーキング」の基礎知識

イーサリアムはブロックチェーンを活用したアプリケーション開発のプラットフォームとして機能し、これまでも段階的にその性能を高めてきました。昨年にはプルーフ・オブ・ステーク(Proof of Stake:PoS)という取引検証の仕組みへと完全に移行しました。

参考記事:イーサリアムの大型アップデート「マージ」によって何が変わるか。そして、その先に目指すものとは

それに続いてイーサリアムは2023年4月13日前後に「Shanghai-Capella(通称:上海)」と呼ばれる大型アップグレードを実装する予定です。すでにいくつかのテスト環境では試験運用を完了し、残すは本番環境のみという中で注目が集まっています。

今回はイーサリアムのネットワークを維持する上で重要な仕組みとなる「ステーキング(Staking)」について触れながら、上海アップグレードによって何が変わるのかを解説します。また、それによる相場への影響についても予想します。


イーサリアムにおける「ステーキング」とは?

英語の「Stake」は日本語で「賭け金」を意味します。つまりステーキングとは、ステークすること、お金を賭けることを意味します。たとえば、カジノではお金を賭けることでポーカーなどのゲームに参加することができます。これと同じように暗号資産においてもステーキングすることでブロックチェーンのネットワークに参加することができます。

イーサリアムの場合には32ETH(約770万円)以上を賭け金として預け入れることで、ブロックチェーン上の取引検証者になることができます。このステーキングによる取引検証の仕組みをPoSと言います。ビットコインにおけるマイニングと同様に、イーサリアムもステーキングの報酬として新しく発行されるETHと取引手数料を得ることができます。

イーサリアムのステーキングは、日本円で見た時の価格変動リスクを抑えながらETHの量を受動的に増やすことができるため、比較的リスクの小さい投資手法としても注目されています。取引検証者になることで年利約5%のリターンをETH建てで安定的に得ることができ、中長期保有者にとっては国債を保有するのに近い感覚で投資することができます。

イーサリアムのステーキングに参加するためには32ETH(約770万円)という金額のハードルがありますが、海外では暗号資産取引所やステーキング業者が投資家向けに仲介サービスを提供しており、誰でも簡単に参加できる環境が整っています。現状の日本では同様のサービスがほとんどありませんが、国内業者が参入した時には利用を検討すると良いでしょう。

イーサリアム以外でもPoS銘柄の多くではステーキングに対応しています。それに参加する上で注意すべき点としては、過剰な利回りをアピールする銘柄は選ばないようにしましょう。 ステーキングによって暗号資産の量が増えても、それ自体の価値がなくなった時には資産を失うことになります。暗号資産投資の大原則に従ってまずは時価総額の大きいものから始めましょう。

イーサリアムの上海アップグレードで何が変わるのか?

2023年4月執筆時点でイーサリアムのステーキングの参加者は約56万ノード(個人・企業含む)以上に増えており、彼らがネットワークに預け入れている資産額は約1800万ETH(約4兆3千億円)まで膨れ上がっています。イーサリアムは昨年にPoSへ移行した後も、取引検証者が新しく資産を預け入れることしかできませんでしたが、その将来性に対する期待からステーキングの規模を拡大し続けてきました。

そして今回の上海アップグレードでは、イーサリアムにロックされている大きな資産がようやく引き出しできるようになります。そこで取引検証者が取りうるオプションとして、32ETH以上を残してステーキングを継続する部分的な引き出しと、ステーキングを辞める全額引き出しがあります。いずれも資産の引き出しによってETHの売り圧が生じるだろうと懸念されています。

確かにビットコインのマイナーが報酬で得たBTCを法定通貨に一部換金しながら事業を継続しているように、イーサリアムについても取引検証者が手元の資金を確保するためにステーキング分のETHを一部売りに動くことはあるでしょう。上海アップグレードの直後はそれが顕著に現れて相場がネガティブに反応することはあるかもしれません。

しかし、ステーキングの参加者がETHを引き出せるようになったからと言って、彼らが一斉にETHを売り払って市場から撤退することは考えづらいです。それはイーサリアムの成長を見越した時にはブロックチェーンの取引検証者になることが、最も安定的かつ確実に利益を上げることができるからです。ビットコインのマイニングが取引所に並ぶ中核事業になっていることからもわかるでしょう。

最近ではイーサリアムをステーキングしながら、その同等分を別の取引にも利用できる流動性ステーキングというサービスも人気を集めています。その最大手であるリド(Lido)はイーサリアムのステーキング市場で最大のシェアを占めています。

上海アップグレードを無事通過することによって不透明感が解消され、むしろより多くの投資家がイーサリアムのステーキングに参加しやすくなるでしょう。それによってイーサリアムのネットワークの健全性も高まっていくことが期待されます。

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