「日本人はこんなに助けてくれる」北九州・高吉正真が『足の指6本』で経験した絶望と大きな希望

J2ギラヴァンツ北九州MF高吉正真は、生まれつき足の指が1本多い先天性異常の先天性多合趾症(センテンセイタゴウシショウ)により、長年両足に痛みを抱えながらプレーを強いられてきた。

インタビュー前編はこれまでのキャリアを中心に、両足の痛みに苦悩した少年期、日本代表MF田中碧やJ1川崎フロンターレで活躍する山田新から受けた刺激や、桐蔭横浜大在籍時のエピソードなどを聞いた。

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後編は先天性異常によるコンプレックスや苦い記憶、自身のTwitterで助けを求めた経緯、そして新しいスパイクとの出会ったきっかけなどを尋ねた。

――大学進学後、足の痛みは改善されましたか。

大学生になって最初の方までそれ(ソックスの二重ばき)をやっていたんですけど、今度は小指が短いので、小指を入れるところが痛くなっちゃって…。

いまはActivital(アクティバイタル)の親指だけが離れている足袋型(ソックス)にしてから結構良くなりました。

親指と人差し指が当たるのが痛くて(5本指ソックスにしてから)改善したんですけど、小指が痛くなっちゃったので「親指と人差し指が離れてればいいや」と思って足袋型にしました。

――ずっと工夫されてきましたけど、この痛みがずっと続くことに焦燥感や絶望感などはありましたか。

ありましたね。みんな憧れるスパイクってあるじゃないですか。そのスパイクをはこうとしたら、入れた瞬間にはけない感じがあったので…。もうそれが辛かったです。

親にも「あんたは、これしかはけないんだから。これはきな」みたいな感じで。普段の靴を選ぶときも足幅を気にしないとはけないんで…。

自分の足のサイズは25.5ですけど、幅を重視していたので高校のときは27.5をはいていました。前は余ってもいいけど、横は痛かったので工夫していました。ぴったりとした靴をはいたことがなかったです。

――それは想像を絶する辛さですね…。

スパイクの形が(足にフィットすると)どんどん変形していって。自分のスパイクはボコボコになって、もう普通のスパイクではないような形をしていた。

試合中そのスパイクを見られるのもちょっと嫌だったです。相手チームに見られたら恥ずかしかったですね。

新天地の北九州へ渡った高吉。九州を代表する港湾都市は、故郷の川崎と似た雰囲気がある街並みだった。チームの雰囲気も上々で、すぐに溶け込んだようだ。期待のルーキーは開幕戦で先発フル出場を果たし、第7節まで全試合出場と好調だ。

――チームの印象を教えてください。

同世代が自分含めて8人いて、年齢が近いのもあって(チームメイトと)話しやすい部分がありましたね。あとは先輩もめっちゃ優しくて、とてもいい雰囲気でできています。

自分が内定決まった後に、岡くん(川崎U-18の先輩の岡田優希)の内定が発表されました。そのときはうれしかったですね。

一緒にやってみて、ユースのころの話であったり、プレーの話をするんですけど。自分より(岡田は)経験値が高いので、いろいろと教えてもらってとても勉強になります。

――北九州市の印象はいかがですか。

自分は川崎出身なので、(北九州の街並みが)似ている感じがします。そしてスタジアムがとても綺麗です。応援もあって、プレーしていてめっちゃ気持ちいいですね(笑)。

――サポーターに向けてセールスポイントを教えてください。

自分の売りは球際の強さであったり、最後まで走り抜くこと、気持ちの入ったプレーが売りです。

そこをサポーターの皆さまに見ていただいて、1人でも多くの観客を沸かせられるようなプレーヤーになりたいと思います。(プレースタイルは)遠藤航選手を理想としていますね。

――おおデュエルキング!(笑)

自分もいつか(デュエルキングに)なりたいですね(笑)。

そしてTwitterを更新した3月2日を迎えた。助けを求めたツイートは拡散され、高吉の想像を超えるほどの大きな反響を生んだ。育成組織時代の先輩との縁により、夢に見たパートナーを手にすることができた。

――Twitterで自身の足の異常をカミングアウトしました。それは勇気がいることだと思います。葛藤などはありましたか。

最初は「(Twitterに)あげなくてもいいかな」と思っていたんですけど、自分と同じで悩んでいる人は多分たくさんいると思いました。

自分はプロになったし、ちょっとやってみようという思いがあってやりましたね。(悩んでいる人たちの)希望になれたらいいなって。

――Twitterはかなりの反響がありました。驚きはありましたか。

驚きました!携帯の通知が鳴り止まなかったです。ニュースにも取り上げられたので、「こんなにバズるんだ!」と思いましたね。

――その後スパイクの提供につながったとお聞きしました。

Twitterで発信してからいろんな人からDMが来て、(その中に)ジュニアユースで1学年上の高岸憲伸くん(J2水戸)がTwitterでDMをしてきてくれて。「ここ(メーカーのBMZが)俺の知り合いだからどうか?」と言われて、それでつなげてもらいました。

――新しいスパイクのはき心地はどうですか。

BMZはいま第1段階みたいな形で、メーカーさんが出しているスパイクをはかせてもらっています。

富山戦の後に、自分の型を作ってもらいに(自分の足を)計測しに(BMZ本社が所在する群馬県みなかみ町へ)行ったんですよ。いま、それをちょうど待っている状況ですね。

――U-15時代の先輩からつながるってすごいですね。

Twitterでいろんな人からDMが来て、先輩や憲伸くんがいて。「困っていたら日本人はこんなに助けてくれるんだな」と思いました。

そのお陰で、いまはスパイクも見つかって、本当に感謝しきれないです。

――高吉選手と同じ足の異常で苦しんでいる人や足に問題を抱えている人たちに対して、今後Jリーガーとしてどのような姿勢で発信していきたいですか。

自分がそういう障がいを持っていたので、とりあえず自分に連絡してほしいですね。スパイクについて少し話せたらいいなと思っているんで。

これから自分のスパイクを発信していって、自分の足がどうなっているのかを発信していけたらいいなと思っています。

(同じような症状で苦しむ)小さい子たちにも自分に連絡してくれれば、助けになりたいと思っています。(Twitterの)DMで連絡してほしいです。

――はきたいスパイクもはけなかった苦しい時間を過ごしただけに、自分の足に合った新しいスパイクはワクワクしますか。

めっちゃワクワクしましたね(笑)。(自分の足を)計測なんてしたことなかったので。

自分に合ったスパイクも作れると言われたんで、もうワクワクしました。やっとかって感じですね。子供がプレゼントをもらえるみたいな感じです(笑)。

――最後の質問です。今季の目標と今後の目標を教えてください。

今季はチームが掲げているJ3優勝で、J2に昇格することを目標にしています。

自分の目標は、北九州の新体制発表会で言ったデュエル王になることを目指してやっています。今後の目標は日本代表になってワールドカップで優勝したいですね。あと海外クラブ、ドイツに行きたいです。

――ドイツでもデュエル王になるんですね(笑)。

はい(笑)

痛みと向き合いながら努力を重ねてJリーガーとなった北九州の背番号34は、Twitterを通してかけがえのないもの手に入れた。それは高吉の足にフィットしたスパイクだけではなく、自身を救ってくれたつながりと困っている人たちのために発信する気高い志だ。

待ち焦がれた相棒を手に入れ、痛みから解放されたデュエリストのサクセスストーリーが始まろうとしている。

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