3市議選 子育てとの両立の現場 泣く子同行も 当事者目線を強みに

母親に抱かれ、選挙運動中の父親(右奥)に同行した子ども(手前)=長崎市内

 人口減が続く本県で子育て支援は重要施策の一つ。政府も「異次元の少子化対策」を打ち出すが、育児や仕事に追われる世代はなかなか政治に目が向かない。そんな中、子育てをしながら長崎、佐世保、大村の3市議選(23日投開票)に挑む候補者がいる。両立に悩んだり、当事者目線を強みにしたり…。“子連れ選挙”の現場をのぞいた。
 ■家族の支え
 告示日の16日午後、長崎市中心部のアーケード。同市議選に立候補した現職男性が、胸に抱いた長男(3)に言い聞かせていた。「お仕事だからね」。泣きじゃくる長男を妻に預けると、通行人に駆け寄って握手を交わし、支持を呼びかけた。
 総務省は先月、子ども連れの選挙運動が公選法に抵触するかどうかをQ&A形式で公表。候補者らの移動に「同行しているのみであれば差し支えない」との項目があり、男性は「ひと安心した」と明かす。スタッフ不足のため妻や母にも手伝ってほしいが、長男を事務所に残すわけにもいかず困っていたという。
 近くに住む両親のサポートもあり、男性は「何とかやれている」と感謝する。ただ、長男の最近の口癖は「選挙が終わったら」。寂しがらせている負い目も、妻に育児や家事の負担が集中する申し訳なさもある。「もし夫婦共働きで、実家も遠ければ成り立たない。休日や夜間の保育を充実しないと、若い世代の立候補はかなり制限されてしまう」と男性は危惧する。
 ■リアル基に
 ママ目線で同市議選に挑む新人女性は、高校生と小学生の娘を育てるシングルマザー。「ひとり親家庭への支援拡充」「病児・病後保育施設を増やす」「学校教材費のオンライン支払いを可能に」。掲げる公約はどれも自身の経験や、ママ友の悩みや不安などの「リアル」を基にした。
 選挙戦でも、母の立場で嫌だと感じる戸別訪問はせず、代わりにSNS発信を強化。幼い子の昼寝を邪魔しないよう選挙カーは主に大通りを走り、住宅街で名前の連呼はしない。
 ただ現在の議員構成で目立つのは、仕事や子育てが一段落した中高年男性。家事、育児、仕事を全てこなす女性の政界進出は「時間的にも経済的にもかなりハード」と実感する。それでも当事者の声を議会に届けようと奮闘する。
 ■肌で感じる
 小中学生3人を育てる佐世保市議選の新人男性候補も、女性へのヒアリングを実施。子の体調不良で仕事を早退せざるを得ない現状を聞き、国の「女性活躍」政策の不十分さを感じた。「現状を変えたいなら声を上げないと」。子を思う親の一人として選挙を戦う。
 大村市議選に出馬した現職男性は、出産を控える妻と過ごす中で妊娠・出産期の課題に気付いた。新型コロナ禍で妻は、産婦人科の出産準備の講座を受けられなかったが、それをオンライン化した自治体もある。ベビー用品購入の負担は大きいが、県内の他自治体には貸出制度があった。肌で感じたニーズ。「男性も子育てに参画しやすい支援のあり方を訴えたい」と語る。
 妊娠、出産、子育ては男女共に直面しうる、大きなライフステージ。自身の経験をどう政策に落とし込み支持につなげるか。候補者たちの模索が続く。

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