また起きた出産めぐる事件 ベトナム人技能実習生の “特有の事情” とは…

広島・東広島市の空き地で生後間もない赤ちゃんの遺体が見つかった事件で、19歳のベトナム人技能実習生の女が逮捕されました。なぜ、こうした事件になったのかは、まだわかっていません。ただ、ベトナム人技能実習生の出産をめぐる事件はこれまでにも起きています。技能実習生の問題に詳しい専門家に聞きました。

【熊本・芦北町 2020年】
熊本では、3年前、技能実習生の女性が死産した双子の男児を遺棄した罪に問われ、1審・2審で有罪となりました。女性は「捨てるつもりはなく安置した」主張…。最高裁は先月、「遺棄にはあたらない」と逆転無罪判決を言い渡しました。

【広島・東広島市 2020年11月】

また3年前に同じ東広島市で起きたのは、技能実習生の女(当時26歳)が産んだばかりの女児を死なせて埋めるという事件でした。裁判では、彼女が「妊娠したら帰国させられる」と思い込んでいたことや、病院に行ったものの言葉が通じず、診察を受けられなかったことなどが明らかにされ、有罪判決を言い渡した裁判長は、「社会的に孤立したまま出産を迎えた」「犯行を被告人のみの責任とするのは酷である」とも述べました。

繰り返される事件…。技能実習生の問題に詳しい専門家は、実習生の出産に関して「特有の事情」があると指摘します。

技能実習制度に詳しい 広島文教大学 岩下康子 准教授
「妊娠がわかると会社から解雇を言い渡される事例が過去たくさんあった。それを伝え聞いている人たちが “帰国” におびえて、(周囲に)妊娠を伝えられないという背景があると思います」

日本に渡るために多額の借金を抱えることが多い技能実習生…。ルール上は日本での出産も可能で、妊娠を理由に帰国させられることはないはずなのですが…

岩下康子 准教授
「ところが、技能実習生にはそれが周知されていません。そのために過去の暗い事情を知っている者の話がSNSで出回っている。基本的に実習生を保護する、相談に乗るというのが、監理団体の役割になっているんですが、監理団体と受け入れ企業は一体となっているので、(妊娠を秘密にするため)相談ができない」

言葉の壁があり、病院や行政にも頼りにくい中、郊外に住む実習生は支援団体にも助けを求め難いといいます。

岩下康子 准教授
「移動にも非常に事欠くようなところに住んでいるので、日本人とのつながりというのがほとんどない状況に置かれています。そのため支援者とのつながりも持てない。ここが一番大きな問題」

政府の有識者会議は、今の制度を廃止し、新たな制度を検討しています。しかし、岩下准教授は、「転職の制限」が緩和される見通しの新制度でもこうした問題は解決しないのではと考えています。

技能実習制度に詳しい 広島文教大学 岩下康子 准教授
「こういった事件というのは、相談できる場所がない。孤立出産に追い込むような監理団体と企業との関係、そういった制度の根幹にかかわる問題なんですよ。そこが変わらない限り、問題はなくならないと思います」

また失われた幼い命…。今回の事件の背景にも「技能実習生特有の事情」はあるのでしょうか?

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