寝屋川繁殖業者事件、感じた警察の動物虐待に対する熱量 ネットで飛び交う憶測には違和感【杉本彩のEva通信】

動物愛護管理法違反の疑いで家宅捜索を受けた繁殖業者の施設=大阪府寝屋川市

以前、このコラムで触れた大阪府寝屋川市の犬の繁殖事業者は、逮捕されたのち公判請求となった。今後、公開された法廷で審理を受けることになる。

この事件は、繁殖施設内で疾病に罹ったり負傷した多数の犬について、適切な保護を行わなかったことから、当協会が2022年7月に、愛護動物を虐待したとして動物愛護管理法違反(同法第44条2項)にて刑事告発した事案だ。その後、私たちは2023年3月1日付で公判請求されたことを知り、今後公判の場ですべての事実をつまびらかにして判決結果を待ちたい、そう思っていた。

臭いで喉や目が痛い

ところがその後、余罪について3月15日付で追送検された。内容は、繁殖施設内のアンモニア臭が基準値を超える劣悪な環境で犬を飼育していた動物愛護法違反の疑いと、犬の登録申請をしなかった狂犬病予防法違反の疑いの2件だ。捜査関係者によると、悪臭下の飼育を犬への虐待とみなし、同法違反容疑を適用するのは珍しいという。それもそのはず、当協会が刑事告発する際には、飼育環境や動物の状態のどこが動愛法44条の虐待にあたるのか常に条文とにらめっこだ。そこにはっきりとした臭気の記載はない。だが昨年11月に家宅捜索した際に臭気を測定したところ、悪臭防止法で定める規制基準の上限5ppmを大幅に超える40~130ppmを記録したという。

臭気については、当協会が当初施設の状況を通報者に聴き取りした際に「余りの臭気に気分を悪くし早退するスタッフもいた」との証言もあったし、3月の大阪府議会で、現場に入った府議が一般質問をしたのだが、その時も「臭いが激臭で今まで感じたことのない臭い。多頭崩壊の現場に慣れている方でも喉が痛い、目が痛い、という状態で数時間滞在するのは考えられない状況。」と述べられていた。人間よりはるかに優れた嗅覚を持つ犬にとって、人でさえ我慢できないレベルの臭気はまさに地獄だ。そこを当たり前に突き追送検した警察の本気度を感じるし、言葉を持たない動物に対し人として至極当然の熱量を感じる。

ネットで行き交う憶測

この事件は、これからいよいよ公判手続きとなるが、逮捕直後はインターネット上で色々な憶測が飛び交った。勝手なことを発信するアカウントに限ってフォロワーが多いらしく、時々ネット上のトラブルが当協会に寄せられることもあるが、ネット空間で起きる喧嘩についてこちらはコメントのしようがない。ただ単に当協会に対しての誹謗中傷ならまだしも、捜査機関に悪影響を及ぼす書き込みだけは勘弁してもらいたい。

今回寝屋川の繁殖施設に家宅捜索が入った際、犬が一頭も押収されず、現場に残ったことについて、作為的であるといった警察批判の投稿を見た。闇をあばくと。だがそうじゃない。家宅捜索は、犯罪を明らかにするために施設を調べ、証拠物を発見するわけだから、大阪府警は昨年11月8日の家宅捜索の時、被害動物を押収する気満々だったであろう。日本国憲法第35条によって住居の不可侵が保障されている以上、法律に基づき裁判所が下した令状を用い捜索する機会は重要な捜査活動になるからだ。

だが今回は押収できなかった。私たちは、その理由を聞いて合点がいったと同時に、そんなことが起きるのかと愕然とした。ただ、ここで押収できなかった本当の理由を書いたら、批判の矛先がいっきに別の所に向くだろうから差し控えるが、少なくともネット上に書かれている警察の落ち度や闇というものでないことははっきり申し上げたい。なので、その時は、ちょうど元オーナーが勾留中でまさに取り調べを受けている最中だったから、間違った情報に扇動された人の抗議が警察の捜査にどれだけ影響があるか危惧していた。

高まった警察の意識

ものごとには色々な事情がある。起きたことすべてに理由があるし、それについて法に基づき手続きを進めている捜査機関を時には信じるべきだ。一民間団体である当協会も、残された犬の保護をどう進めるかなど、現行法上で出来ることに限りがある中でほうぼう手を尽くす。そこに裏も闇もない。

ちなみに申し上げると当協会の肌感覚では、数年前に比べ自治体ごとの違いこそあるが、動物虐待事件について警察の理解は格段に進歩している。実際に都道府県警担当者とお話しをすると、行政とは違い血が通った会話が出来る。過去には、自分も犬や猫と暮らしている、良い報告が出来るよう何とか進めているから、もう少し待って欲しいとあちらからたびたびお電話をくださる警部もいた。

インターネットは知りたい情報を調べたり、人と連絡を取ったり便利である一方、憶測の情報を流したり、また間違った情報を受け取り扇動されてしまい、時にものごとの進行を遅らせたり、見えない相手を傷つけたり、最悪は加害者になり得ることもある。ましてや手続き中の事件捜査を担う警察に過度に接することが原因で、必要な情報も私たちに入ってこなくなることもあるのだ。動物を思う正義感が原動力ならば、ネット空間だからこそ対面以上の配慮と気遣いが必要だ。

⇒街中の一軒家で350頭の犬たちを飼育、寝屋川市のブリーダー逮捕 告発した理由と行政対応への違和感

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「杉本彩のEva通信」は、動物環境・福祉協会Eva代表理事の杉本彩さんとスタッフによるコラム。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。今回のEva通信は、杉本さんと共に日頃活動している松井事務局長が執筆しました。  

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