日本一の鉄道旅行は…参加費150万円以上の鉄道開業150年記念「列島周遊ツアー」に 「鉄道なにコレ!?」【第43回】 

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

鉄旅オブザイヤー」2022年度の受賞者ら=2023年4月19日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」の2022年度の授賞式が4月19日に鉄道博物館(さいたま市)で開かれ、グランプリに鉄道開業150年を記念して主にJRで日本列島を14日間かけて周遊した日本旅行のツアー(参加費150万~200万円)が輝いた。主要4部門のうち3部門は、審査員を務める筆者がそれぞれの最高得点を付けた商品が選出。授賞式当日の決戦投票で決めたグランプリもラジオ番組で前日に予想したが、その行方はー。(共同通信=大塚圭一郎)

 

JR九州の観光列車「或る列車」=19年3月30日、長崎市で筆者撮影

【鉄旅オブザイヤー】国内の鉄道旅行に贈られる代表的な賞で、テレビ番組で「鉄道旅行のアカデミー賞」と紹介された。旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、2011年度から毎年実施。後援にはJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう。
 旅行会社のツアーを対象にした旅行会社部門は、委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者ら計10人の外部審査員が、旅行のプロとしての企画力が感じられるか、独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを60点満点で採点。
 一般消費者から旅行企画を募るアマチュア部門の最終審査員は、いずれも鉄道好きで有名なフリーアナウンサーの久野知美さん、ホリプロマネージャーの南田裕介さん、お笑い芸人「ダーリンハニー」の吉川正洋さん。22年度は53件の応募があり、ベストアマチュア賞は東京都立大学まちのお話し会プロジェクト部、鈴木倖陽さんの作品「修学旅行リベンジ 鉄道で密を避けながら京都の歴史をたどる旅」が受けた。
 鉄旅オブザイヤーのホームページはこちら。 
https://www.tetsutabi-award.net/

JR東日本のオール2階建て寝台客車「カシオペア」とけん引する電気機関車=2017年2月27日、埼玉県で筆者撮影

 ▽カシオペア乗車も
 12回目の今回の旅行会社部門は2022年に催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を募集し、前年度より3件増の86件の応募があった。グランプリを受けたのは団体旅行を対象としたエスコート部門賞の商品で、「一生に一度しかできない思い出に残るような鉄道の旅」がテーマ。定期運行を既に終えたJR東日本のオール2階建て寝台客車E26系「カシオペア」、JR九州の車内で料理を楽しめる観光列車「或る列車」、特急「ゆふいんの森」などの幅広い列車に乗って33都道府県を巡った。宿泊施設も東京駅の赤れんが駅舎の「東京ステーションホテル」や、大分県の由布院温泉の「亀の井別荘」などを厳選した。授賞式では筆者の「『鉄道旅行の集大成』と呼ぶべき絢爛豪華な商品です。JRグループの人気列車と厳選した宿泊施設を組み込みつつ、2週間の長丁場になることから参加者の体への負担を考慮して出発時刻を遅めにし、比較的早い時間に投宿できるように配慮した企画力が素晴らしい」とのコメントが紹介された。

JR九州の特急「ゆふいんの森」=2019年3月26日、大分県日田市で筆者撮影

 ▽世界農業遺産、工事現場見学、西九州新幹線の地元へ
 個人向けツアーに贈るパーソナル部門賞は、日本国有鉄道(国鉄)時代に造られた気動車キハ48形を改造した観光列車JR東日本の観光列車「びゅうコースター風っこ」に乗り、一ノ蔵と寒桜酒造の地酒の試飲を通じて宮城県の世界農業遺産「大崎耕土」への理解を深めたJTBの旅行商品が受賞。
 鉄道愛好家向けの「鉄っちゃん部門賞」は2030年度末の開業が計画されている北海道新幹線の新函館北斗(北海道)―札幌間(約212キロ)延伸のトンネル工事現場や、車両基地を見学したクラブツーリズムの商品が選ばれた。

北海道新幹線にも乗り入れるJR東日本の車両E5系=2013年3月16日、福島県で筆者撮影

 一方、JRグループと自治体が手がける大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」を対象にしたDC部門賞には、西九州新幹線が武雄温泉(佐賀県)―長崎間で部分開業したのを記念した佐賀・長崎DC期間中にJR九州の観光列車で九州を周遊したクラブツーリズムの商品が選出された。
 22年9月23日に営業運転が始まった「ふたつ星4047」を利用し、「九州横断特急」に使う国鉄末期の1986年に登場した気動車のキハ185系も普段は通らない肥薩線と日豊線で運行。参加者は手に入れにくい嘉例川駅(鹿児島県)の人気駅弁「百年の旅物語 かれい川」に舌鼓を打った。

JR九州の気動車185系(写真は特急「ゆふ」の塗装)=2013年6月3日、福岡県で筆者撮影
CROSS FM(福岡県)の番組「Urban Dusk」のナビゲーター、栗田善太郎さん=福岡市

 ▽アカデミー賞方式に
 アカデミー賞が候補作品を事前にノミネートするように、2020年度からは旅行会社部門の四つの主要部門賞を事前に発表し、授賞式当日の決戦投票(欠席者は事前投票)でグランプリを決めるようになった。
 筆者は誠に微力ながら授賞式への関心を高めるため、主要部門賞の発表後にグランプリの結果を予想するようになった。20年度は本連載「鉄道なにコレ!?」の第18回、21年度は勤務先の契約社、CROSS FM(クロスエフエム、福岡県)の番組「Urban Dusk(アーバンダスク)」(月曜日~木曜日午後5時~7時51分)で授賞式前日にそれぞれグランプリを予想して的中していた。
 22年度の授賞式前日の23年4月18日も「Urban Dusk」に出させていただき、ナビゲーターの栗田善太郎さんから「2022年度は何がグランプリに輝きそうか、大塚さんの予想をお願いいたします!」と尋ねられた。

 ▽予想したグランプリはー
 筆者は鉄っちゃん部門に選ばれた商品には2番目に高い60点満点で53点を付け、残る3部門の受賞商品にはそれぞれの部門で最高の54点を付けた。得点がほぼ横並びだったのは、甲乙付けがたい力作ぞろいだったからだ。このため迷いながらも、グランプリをこう予想した。
 「私はご紹介した4部門の中で、鉄道開業150年を記念して、JR九州を含めてJRで日本列島を14日間周遊した日本旅行のツアーがグランプリになるのではないかと予想しています」
 グランプリにふさわしいと受け止めた要因として「旅行のプロならではの工夫を凝らしたぜいたくな内容、それで優れた企画力で、参加者の方からの満足度も高かった」と指摘し、「鉄道開業150年をお祝いし、新型コロナウイルス禍から(旅行で)訪れた九州ももちろんそうですが、全国が喜ぶことができてオールジャパンで巻き返すために、本当に幸先が良いツアーではないかと評価しています」と申し上げた。

「鉄旅オブザイヤー」2022年度のグランプリを受賞した日本旅行の社員ら。一番左は山北栄二郎JTB社長=2023年4月19日、さいたま市の鉄道博物館(日本旅行提供)

 栗田さんに「歯切れが良い」と評していただいた予想は的中し、グランプリが決戦方式になってから“3連覇”を達成した。
 ただ、賞の行方にも増して重視し、かつ評価している点として強調させていただいたのは全ての鉄道旅行が「消費拡大を通じて地域経済をさらに押し上げるためにも重要な役割を果たしている」という事実だ。
 新型コロナの感染症法上の位置づけが5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」となり、アフターコロナ時代の本格化に伴って魅力的な鉄道旅行が次々と“出発”するのは確実だ。地域経済および日本経済を大きく押し上げる原動力になることを強く期待したい。

 ※「鉄道なにコレ!?」の筆者が、書き切れなかった話題を交えて連載を音声配信でも振り返っています。以下のリンクの共同通信Podcast番組「きくリポ」で、ぜひお聞きください。
https://omny.fm/shows/news-2/17

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!

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