育休中の学び直しは? 多忙に疲労、甘くない現実 首相発言で議論に 【あなた発 とちぎ特命取材班】

長男の育児に追われる新川さん。自分の時間を持てるのは夜遅くなってからという=宇都宮市宝木本町

 デジタルといった成長分野などで知識やスキルを学び直す「リスキリング」。岸田文雄(きしだふみお)首相が育児休業中の女性の学び直し支援に言及した発言が「育休、産休を甘くみている」と批判された。そんな中、下野新聞「あなた発 とちぎ特命取材班」に読者から疑問が寄せられた。「20代未婚で、なぜ批判が起きたのかよく分からない。育休中の大変さを知りたい」。確かに育児の実態は想像しにくいかもしれない。学び直しに関心を持つ育児中の母親らを取材した。

 「正解が分からない選択の連続」。長男(2)を育てる宇都宮市宝木本町、公務員新川美香(しんかわみか)さん(35)は、育児の苦労をそう表現する。2年間の育休を終え1日に職場復帰した。

 産後間もなくから授乳トラブルや夜通しの対応で心身の疲労がピークに達し、行政のサポートを受けた。長男が4~5時間、まとまって寝てくれるようになった半年ごろからは離乳食に頭を悩ませた。身体や言葉の発達など新たな“壁”が次々に生じる。「個人差が大きい分、見通しが立たないことが不安」と明かす。

 日中は付きっきりで、思い描いた資格取得はかなわなかった。「学びの機会をもらえるならぜひやりたい。でも、サポート体制が整っていない…」と漏らす。

 企業では産休前から、従業員に学びの機会を提供する会社もある。

 電子・光学材料製造のデクセリアルズ(下野市)はオンラインの100超の講座から、自由に選べるプログラムを導入している。同社勤務の舛屋由香里(ますやゆかり)さん(36)は次男(1)の育休中、昼寝の時間をビジネス英語などの学習に充てた。

 第2子で保育園探しの負担がなかったという。復職後も語学力が業務に生きており「自分のタイミングでやりたいことができる仕組みは非常に良い」と話す。

 宇都宮市在住のキャリアコンサルタント石井由貴(いしいゆき)さん(42)は首相発言について「母親の生活実態を理解せずに育休と勉強を安易に結びつけたことは、子育てに対する無関心の表れ」と指摘した。自身の経験も踏まえ「育休期間は職業人以外の視点でキャリアを考える機会。企業主体のリスキリングに対し、個人では自身を知り、スキルや経験を身に着けていく連動が良いのではないか」と幅広い視野での学びを提案している。

 記者も一児の母。わずか1時間の“自分時間”確保の難しさも、何かを得たいともがく思いも共感する。子の性格や人数、周囲のサポート、仕事と家庭に対する考え方-。育児を巡る状況は千差万別で悩みがない親はいないはず。育児自体が大きな学びの機会だと改めて感じた。

© 株式会社下野新聞社