新卒採用、中小企業が苦戦 コロナ後、業績回復遅れ 茨城

合同企業説明会で話し合う企業の採用担当者と学生ら=水戸市五軒町

新卒の売り手市場が続く中、茨城県内企業の人材確保で明暗が分かれている。有力企業が新卒者を着実に確保する一方、中小はコロナ禍からの業績の回復遅れなどから苦戦し、今春採用がゼロだった企業も。長年続く学生の大手志向に加え、志望業界の偏りもあり、中小の人材確保策は厳しさを増している。

水戸市内で4月下旬に開かれた合同企業説明会。参加した茨城大2年、菅原千聖さん(19)は「安定した就職先で、やりたいことができる職場」と志望する企業の理想像を語った。

説明会に臨んだ企業の人事担当者は、不安定な経済情勢を挙げ「大手志向は強い」と指摘。働き方や職種にこだわる学生が増えたとの見方を強め、募集時には多角的な事業展開などを打ち出し、経営の安定感をPR。多様な職種を周知することで、新卒確保につなげたい考えを示す。

学生の大手志向を反映するように、県内の有力企業の新卒者採用は順調だ。

筑波銀行(土浦市)は本年度、前年度比12人増の58人を採用し、来年度も約60人を採用する計画。順調な採用の理由について、人事担当者は「入社の動機付けを意識した面接や内定後のフォローなどを工夫している」と説明した。

カジュアル衣料雑貨販売のアダストリア(水戸市)は同60人増の160人が入社。来年度の採用枠は約200人に拡大予定という。同社は「ファッションの楽しさに引かれて応募する学生も多い」として、業界の人気を生かして強気の採用活動に臨む構えを見せる。

こうした企業とは対照的に、中小は苦戦を強いられている。

常陸大宮市の建設業者は、本年度に新卒者を複数採用する予定だったが、入社はゼロ。採用担当者は「応募自体も少ない。業務がきついという(業界全体の)印象が拭いきれていない」と嘆き節。「もっと働きやすい職場とアピールする必要がある」と課題を挙げる。

民間信用調査会社の帝国データバンク水戸支店の調査によると、本年度に正社員採用を計画した企業は、規模別で大企業が前年度比5.4ポイント増の92.9%、中小企業は同1.2ポイント減の58.0%だった。規模にかかわらず企業の採用意欲は高いものの、小規模になるほどコロナ禍で落ち込んだ業績の回復が遅れている傾向が見られ、雇用にも影響しているという。

同支店の担当者は、製造や建設など慢性的な人手不足に苦しむ業界などを挙げ、「規模や業種間で採用実績に差が出ている」と指摘。人材確保は企業の生命線として、「採用力を高める策を早急に考える必要がある」と指摘した。

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