社説:英国王戴冠式 信頼を取り戻す必要も

 誰が王なのか。内外にはっきり示そうという儀式が、70年ぶりに英国であった。

 ウェストミンスター寺院(ロンドン)で、先日行われたチャールズ国王の戴冠式である。

 昨年9月に死去した母親エリザベス女王の跡を継いで即位した国王は、千年以上も続く伝統の式典を通じて、英国の統治を「厳粛に約束する」と宣誓した。

 王室関係者はじめ各国君主や首脳、歴代英首相、日本の秋篠宮ご夫妻を含む2千人以上が参列。パレードの沿道は、お祝いに駆け付けた大勢の人々で埋め尽くされ、その模様は世界に発信された。

 所期の目的は、達成されたといえそうだ。

 ただ、その規模は、前回と比べて大幅に縮小されたという。

 式典は、英国国教会の最高位聖職者であるカンタベリー大主教を中心に執り行われたが、女性聖職者やキリスト教以外の宗教の代表者も初めて進行に携わり、信仰の多様性などに配慮された。

 一方、ロンドン中心部では、王室廃止を訴え、多額の経費がかかる戴冠式に反対する団体がデモを実施した。全国から集められた3万人近い警察官が会場周辺に配置され、厳戒態勢が敷かれた。

 こうした動きは、英王室に対する信頼が、内外で揺れていることの証左であろう。

 多くの人に敬愛された先代の女王と比べて、国王の人気は低迷しているとされる。

 世界を驚かせたダイアナ元妃との離婚、その後の元妃の事故死、弟アンドルー王子の性的虐待疑惑など、王室周辺のスキャンダルが相次いだ。次男のヘンリー王子は公務を引退して妻メーガン妃と米国で暮らし、国王、兄ウィリアム皇太子との確執を暴露した。

 これらの事案に嫌気が差したのか、世論調査で「君主制を維持すべきだ」とした国民は、10年前には75%にも達したのに、先月は58%に低下した。18~24歳の支持はわずか32%に過ぎない。

 旧植民地など56カ国でつくる英連邦の結束にも、ほころびが生じている。一部加盟国に、英国王を国家元首とする立憲君主制から、共和制への移行を目指す動きが起き、波紋を広げている。

 国王は、まずは国民との間の溝を埋めて、信頼を取り戻す必要があるだろう。そのうえで、王室に対する理解を、若い世代にも広げていきたいところだ。

 各国の王室なども、国王の手腕を注視していよう。

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