社説:LGBT法案 自民の人権意識を疑う

 差別解消になぜ、ここまで後ろ向きなのか。改めて政権党の人権意識を疑う。

 LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案を巡り、19日開幕の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)前の成立は困難との見方が強まった。

 野党各党や与党内でも公明党はサミット前の成立を求めてきたが、自民党内で保守系議員が強く抵抗している。関連会合で反対派に配慮した修正案が示されたが、継続議論となった。

 理解増進法案は超党派の議員連盟が議論を進め、2021年に与野党実務者で合意した。だが自民の保守系議員の反発で国会提出が見送られたままである。

 サミット議長国を務める日本にとって、差別解消への取り組みは国際公約でもある。先月18日にG7外相が出した共同声明は、性的少数者の権利擁護に向けて「G7の継続的な世界的リーダーシップを再確認する」と言明した。

 そもそも性的少数者の権利を守る法整備をすることは、誰かに不利益を与えるわけではない。世論調査でも、LGBTへの理解増進法や同性婚に賛成する声が反対を大きく上回っている。

 にもかかわらず反対派はかたくなな態度を続けている。「差別は許されないとの認識の下」と記した文言を問題視するが、言いがかりに等しい主張であきれる。

 「差別は許されないと法律に明記すると訴訟が乱発される」「女性用のトイレや浴場に、私は女性という男性が入りトラブルになる」といった具合だ。非現実的であり、性的少数者への偏見を助長しかねない。

 こうした考えにとらわれる人がいるからこそ、差別を許さない法律が必要ではないか。少数者の権利擁護より、偏狭な見方を優先させていると思われても仕方ない。

 本来なら理解増進という理念的なものではなく、はっきり差別解消をうたうべきだろう。法案は取り組みの入り口に過ぎない。

 岸田文雄首相は今年2月、性的少数者などを巡り「見るのも嫌だ」と発言した首相秘書官を更迭した。党役員会で法案の国会提出へ準備を進めるよう指示したが、踏み込んだ発言を避けている。統一地方選や衆院補選向けに、ポーズを見せただけなのか。

 日本はG7で唯一、性的指向や性自認に基づく差別を禁じる法令を定めておらず、同性婚も認めていない。このままでは差別を容認していると受け取られかねない。首相の見識と指導力が問われる。

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