吉田正尚のスイング「日本人には珍しい型」 動作解析の第一人者が明かす強打のメカニズム

米大リーグ、オリオールズとの開幕戦の6回、中前にメジャー初安打となる適時打を放つレッドソックスの吉田正尚=3月30日、ボストン

 米大リーグ・レッドソックスの吉田正尚(福井県福井市出身)がデビューし、1カ月余りが過ぎた。主に2番や4番に座り、チームトップの打率3割2分1厘をマーク。打線の核として欠かせぬ存在になり、5月9日(日本時間)には初めてア・リーグ週間MVPに選ばれた。識者も「早いペースで順応できている」と驚きの目で見る。

 吉田が波に乗ったのは2安打を放った4月20日のツインズ戦。そこからの出場16試合で打率4割3分8厘を誇る。

 コーチング学や野球方法論が専門で、選手の動作解析の第一人者、川村卓・筑波大准教授(52)によると、吉田のスイングのメカニズムは日本人には珍しい型という。最初に肩が回り始め、グリップがある程度前に出た瞬間、腰と肩の双方が一緒に回り、腕がついていくためだ。

 通常は腰、肩、腕の順に動く。大谷翔平(エンゼルス)も同様で、大きくて重い部分から動かし、バットに力を伝えていく。しかしインパクトまで時間がかかり、大リーグの主流である速くて手元で変化する球には対応が遅れがちになる。吉田のスイングは、より球を引きつけた上で一気に出力できるという。

 そのスイングが強い打球を生んでいることはハード・ヒット率(打球の初速が95マイル=約153キロ=以上の率)が示す。データ解析システム「スタットキャスト」によると、不振に陥っていた4月中旬の約36%から半月ほどで48%(日本時間8日時点)に伸び、49.5%(同)の大谷に肉薄する。

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 川村准教授が吉田の大リーグでの活躍を確信したのは、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準決勝のメキシコ戦で放った右翼ポール際への本塁打。左腕投手の内角低めのチェンジアップを右手一本で払うように運んだ一発は、「本来ファウルになる」ボール球をたたき、「そうした動く球を安打にできるか」が成功の鍵とみていたからだ。

 ポイントはインパクト後に左手をバットから離すような動きにある。パワーで劣る日本人は振り下ろす力を使う方が合理的だ。しかし、大リーグの投手は低めに落ちる球を有効に使う。大柄な大谷はかち上げる打ち方で克服したが、小柄な吉田は手を離す打ち方をすることで「届かなかったところも届く」。手を離してもパワーを伝えられるのは胸椎の可動域が人並み以上に大きいためと川村准教授は分析する。

 開幕1カ月でメジャー式の対応を体で理解した順応力を川村准教授は評価する。今後は「左投手の(体から遠い)外角の球に対し、強い打球が打てるかが課題」。吉田が描くスイングの軌道に、これからも注目だ。

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