勝つほど忙しい

 〈困った事になってしまった。暇だらけなのである〉-将棋の先崎学九段がずいぶん前のエッセーでこんなふうに嘆いていたのをとても印象深く覚えている▲〈週刊誌の連載があって良かった〉と笑わせながら“種明かし”が綴(つづ)られる。〈それもこれも負けまくった自分がいけないのである。将棋に負けるということは、次の対局がなくなることも意味するのだ〉▲勝てば勝つほど忙しくなり、負ければその逆-と、とてもシンプルな仕組みで動いている将棋界で今、最も忙しい棋士の1人が対馬市出身の佐々木大地七段だ。4月以降の対局数は全棋士中トップの9局で、目下8勝1敗▲勝っているから大きな勝負が続く。6月に始まる棋聖戦の挑戦者に決まったことに少し前に触れたばかりだが、別のタイトル戦「王位戦」でも挑戦者決定戦に進出した▲紅組と白組に分かれて各6人が戦う挑戦者決定リーグを無傷の5連勝で駆け抜けた。負かした5人の中には渡辺明名人も含まれている。挑戦者決定戦の対戦相手は羽生善治九段。その先の7番勝負で待ち受けるのは藤井聡太・現6冠▲困ったことになった。佐々木さんの活躍はうれしいが、王将戦に続く藤井-羽生の再戦も見たい。どっちを応援しよう…。県内のファン心理大揺れ必至の一番は18日に指される。(智)

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