「言葉交わし力合わせよう」 日本ツアーの米市民に長崎被災協が講話 被爆者の声に目元拭う

森内さん(右手前)の被爆体験に耳を傾ける米国人旅行客=長崎市岡町、長崎被災協

 核大国アメリカの市民が今月、米本社の旅行会社の企画でグループごとに長崎市内を訪れ、被爆者の証言を聞いている。今月は広島で先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)、長崎で保健相会合が開かれ、二つの被爆地に集う核保有国などのリーダーやメディアの発信にも注目が集まる。「核なき世界」を求めるナガサキの声を、米国民がどう受け止めるのか。講話会場を訪ねた。
 「爆心地は焼け野原。川にたくさんの遺体が浮いていたが、怖いという感覚すらなかった」。9日午後、長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)の一室。被爆者の森内實さん(86)=西彼長与町=が身ぶりを交え、8歳で目の当たりにした惨状を語った。米カリフォルニア州から訪れた60代の夫妻2組は時折、口元を手で覆ったり目元を拭ったりしながら、通訳を介して証言に聞き入った。
 4人は米国に本社を置く旅行会社グランド・サークル・コーポレーション(東京)が企画した日本ツアーの参加者。長崎には3日間滞在し、長崎原爆資料館や平和公園なども巡った。4人を含め、今月中に10グループの計50人程度が長崎を随時訪れる予定で、講話は被災協の語り部メンバーが担当している。
 森内さんの講話は予定を超える1時間半に及んだ。大やけどを負った親戚の子どもたち、元気そうに見えたが被爆1カ月後に急死したいとこ、自身にも相次いだがんや病-。放射能の恐怖を語る森内さんに、4人からも質問や意見が積極的に上がった。
 スティーブン・モックさん(67)は、ロシアのウクライナ侵攻を受け「核兵器の使用をちらつかせるプーチン(ロシア大統領)を許してはいけない」と語気を強めた。タイ・シューリングさん(69)は「『核なき世界』を言葉だけで終わらせないため、悲惨さを伝え続けてほしい」と森内さんに求め、「米国内でも(核廃絶と核保有をそれぞれ求める)大きな考え方の違いがあるが、私は今日聞いたことを子や孫に伝えたい」と誓った。
 森内さんは「理想論かもしれないし、私が生きているうちに答えは出ないかもしれない」と前置きした上で、こう言った。「人間には言葉がある。言葉を交わし、力を合わせて『核なき世界』を目指そう」。4人はうなずき、森内さんと固く握手を交わした。
 G7首脳や閣僚が被爆者と対話する時間が確保されるのか、現時点では不透明だ。それでも森内さんは取材に「人類を守るため、日本や各国が協力して核兵器(の保有、使用)を禁止しなければ。そのためにもリーダーたちが、被爆者の生の声を聞いてほしい」と願いを語った。

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