社説:新庁発足1カ月 子ども財源確保、主導を

 財源の確保に向けた議論を主導できるかが、最初の正念場となりそうだ。

 子ども関連政策を総合的に担う首相直属の組織「こども家庭庁」が発足して、1カ月が過ぎた。

 幾つかの取り組みが動き始めている。「こどもファスト・トラック」は、子ども連れの人や妊婦が施設、イベントで優先的に入場できる。ゴールデンウイークには東京の国立科学博物館で実施された。看板とする「省庁横断」の先駆ということか。

 子育てや虐待、子どもの貧困などの施策を議論する新設の「こども家庭審議会」では、25人の委員のうち20代の若者が6人を占めた。大半の省庁審議会は年配の学識者や専門家らを中心に構成されるだけに、当事者の声を聞くという姿勢を示す狙いだろう。

 審議会では、今後5年程度の基本的な方針を定める「こども大綱」の具体的な内容も検討する。次世代の声をいかに反映するのかを注視したい。

 岸田文雄首相が掲げる「次元の異なる少子化対策」で3月末にまとめた「たたき台」では、児童手当の所得制限撤廃や育児休業給付引き上げ、保育サービスの利用拡大などが盛り込まれた。具現化には兆円単位の財源が必要となる。岸田氏が繰り返してきた「子ども予算倍増」の実現が焦点だ。

 政府は来月の「骨太方針」の策定までに大枠を示すとし、議論のための「こども未来戦略会議」を4月に立ち上げた。

 政府・与党内では、医療などの社会保険料に一定額を上乗せして徴収する案が浮上しているが、肝心の子育て世代も負担が増えることになる。共同通信の世論調査で、「反対」が6割弱を占めた。

 自民党の一部には国債で賄うべきとの声もあるが、鈴木俊一財務相が「負担の先送りだ」と否定したのは当然だろう。

 持続可能で安定した財源を確保するには、高齢世代も負担する消費税を含め、金融所得課税や相続税など幅広く議論するべきだ。

 そもそも同会議の事務局を、こども家庭庁ではなく、内閣官房が担っているのは理解に苦しむ。縦割り行政を打破する象徴として創設されながら、役割や権限の曖昧さを早くも露呈した形である。

 子どもを産む10~30代の人口が急減する時期が迫り、施策実現にはスピード感が欠かせない。こども家庭庁は脇役であってはなるまい。今後の議論で存在感を示してほしい。

© 株式会社京都新聞社