開いた傷口にハエ、はめられた口輪…無資格の帝王切開の悲惨な実態 松本・ペット繁殖業者裁判を傍聴し震撼【杉本彩のEva通信】

ペット繁殖業者による動物虐待事件の裁判を傍聴するため長野地裁松本支部に訪れた杉本彩さん

「宣誓 良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」 刑事裁判の冒頭、証人は必ずこのように宣誓をしなければならない。その後、裁判官は偽証罪の告知をする。偽証罪とは、法律によって宣誓した証人が、虚偽の陳述を行うことによって成立する犯罪だ。「虚偽の陳述」とは、証人が自己の記憶と異なる事実を述べることだと解釈されている。

当協会Evaが刑事告発し、現在実刑を求めて署名運動(https://chng.it/GK4R6zKxDT)をしている史上最悪の劣悪繁殖業者による動物虐待事件の公判にも、現在までに3人の証人が出廷している。この事件は、このコラムでも何度も取り上げている長野県松本市の犬の繁殖業者による動物虐待である。獣医師資格のない社長と一人の従業員が、出産間近の犬に対して無麻酔でメスで腹を割き、帝王切開と称して商品となる仔犬を腹から取りあげていた。内部告発した元従業員の証言や、法廷に出廷した証人によると、このような虐待が日常的に行われ、死んだ犬も多数いたという。現在、罪に問われている繁殖業者の元社長百瀬耕二被告は、みだりに傷つけたわけではないと、44条1項の殺傷罪に対して無罪を主張している。

 2月に行われた第2回目の公判では、元社長と同様に手術をしていた元従業員が、捜査当初とは随分違う証言をした。一体何故なのか。裁判が進むにつれ、その理由がわかってきた。元従業員は、業務ミスを理由に給与から天引きされていた1000万円を現金一括で、さらには退職金も受け取ったことが、証言に大きな影響を与えたと考えられるからだ。裁判中の一貫性のない証言には、嘘をついているという印象を誰もが受けたはず。これは偽証罪に問われないのか、そんな疑問と怒りが湧いてきた。また被告である社長と同様に手術という虐待をしていたにもかかわらず、この元従業員は不起訴になっている。たとえ司法でその罪が追及されなくても、せめてもの償いとして、正直に事実を証言すべきである。 

新聞紙を敷いたケージの上で開腹

そして、4月に行われた第3回目の公判は、証人は名前を公表しないということで、複数のパーテーションで厳重に囲われ、傍聴席から姿が見えない状況で始まった。勤務初日に帝王切開を手伝うことになった元従業員の女性はこう証言している。子宮から緑色の袋が出ていた犬を、被告人の指示でヒーターや新聞紙を敷いたケージの上に乗せようとしたが、犬が重くてもたついていると、被告人が持ち上げてくれた。「俺が押さえるから結んでくれ」と言われ、嫌がる犬を仰向けに大の字にし、ビニール紐で四肢をケージに括り付け固定した。身動きの取れない犬は頭を動かしていた。手術になると聞いた時、手術部屋に移すのかと思ったそうだが、手術を安全に行なうための手術室ではなく飼育部屋で行われ、犬を乗せたのも手術台ではなくケージの上だった。

メスで犬のお腹を開いた被告に、「麻酔はしないのか」と聞いた。被告人からは、「昔は麻酔をしていたけど管理が難しくて死んだりするから、なるべく死なないように麻酔をしなくなった」と説明を受けたという。麻酔をしていたという被告人の主張は、やはり嘘のようだ。検察から、メスで切り開いた時の反応はどうだったか聞かれると、「頭を左右に振って苦しんでいるように見えた。鳴き叫んでいた」と答えている。その後も証言は続き、開いた腹から胎盤をハサミで切って仔犬を取り出していた。元従業員は仔犬を受け取り、声を出すまでゴシゴシタオルで拭いたがうまく出来ず、被告が「こうやるんだ」と教えてくれ、見よう見まねでやったという。 元従業員は10~20回ほど帝王切開を手伝った。犬は腹を切られてから縫合まで鳴いていた。ずっと鳴いている子もいれば、途中からぐったりする子もいたと証言している。

また検察から犬の管理状態を聞かれると、怪我の治療が必要な場合も、社長や手術をしていた元男性従業員から病院に連れて行くよう言われたことはなかったそうだ。首を怪我したプードルの傷口に縫った糸のようなものがあったが、皮膚と皮膚がくっついていなかった。どんどん悪化していき、傷口にハエがたかっていた。敷いていた新聞紙を何度変えても血で赤くなったそうだが、元男性従業員に犬の状態を伝えると、ハエ取りシートを付けただけで、犬には治療しなかったという。社長はそのプードルを仔犬の部屋に移したが、あとから夜勤の従業員に死んでしまったと聞いたそうだ。

これらの証言からも被告人が、犬を命とも思わず、どれほど残酷で非道な扱いをしていたかが明らかだ。しかし公判の最後には、そのような証言をした証人から耳を疑うような発言があり、また理解不能な行動も。この証人は、2021年9月の被告の逮捕から1年以上経った今年の1月に、被告人に謝罪のラインを送っていた。麻酔をしていたのに、「していない」と警察に言ったことを謝りたかったというのだ。麻酔はしないと社長から聞いていたので、麻酔していないと思ったが、麻酔をしていたという被告人の主張を警察から聞いたことにより、犬がぐったりしていたのは、もしかしたら麻酔のせいなのかもしれない、自分は嘘を言ってしまったのかも、そう思ったというのだ。

このラインを送ったのは、弁護側の接触があった後だ。証人が被告に送った不自然な謝罪ライン、弁護人とどんなやり取りがされたのか、具体的なことはわからない。また検察官から、被告の仕事への姿勢について聞かれた際、せきを切ったように証人が泣き出した。「社長は分からないことはないかとか聞いてくれたり、犬の爪を切ってくれと私たち従業員に頭を下げたり、犬がどうでもよかったとは思っていない、金儲けのためではなく、自分の全てをかけていた。社長はいつ休んでいるのかと思うくらい365日24時間ずっと働いていた。新しい犬舎を何億かかってもいいから建てると言っていた。お金がいくらかかってもいいから人を増やそうとも言っていた。お金儲けのために身を削ってまで働かないと思うし、犬がどうでもよかったらそんなことは言わないと思う。経費削減のため苦渋の決断だったと思う」。そう泣きじゃくりながら虐待に理解を示したのだ。この発言には開いた口が塞がらなかった。そして沸々と怒りが込み上げてきた。爪を切る、仕事を教える、不衛生な老朽化した犬舎をお金をかけて建て直す、これらは営業していくなら当然のことだ。その当然のことが、全くまともに果たされていなかった。

それどころか、病気の犬を放置したり、無資格・無麻酔で犬の腹を切ったり、まともな人間ならこのような非道な虐待に、何一つ理解できる点などないはず。この極悪非道な金の亡者を、血も涙もない人間のように報道されていて気の毒だと言い、犬を大事にしていたと擁護し、泣いて訴える様子は異様でしかない。犬に申し訳ないことをしたと、虐待を幇助した罪を悔い、涙するなら理解できる。しかし、被告人に同情し泣きじゃくる心境とは一体何なのだろう。この証人の女性は、被告が逮捕されるまでの約8カ月間、この劣悪繁殖場で働いていた。たったそれだけの期間で、このような心境に至るものだろうか。また証人は犬を飼っており、声帯を取られていた保護犬の里親だという。犬の世話という求人を見つけ、やってみたいと思ったそうだ。単にお金を稼ぐだけじゃなく、犬を守るとか育てることに関わりたいと思ったという。しかし実際は、犬を守るどころか、虐待を幇助していただけ。帝王切開を見てショックで辞めようと思っても、ガラクタばかりで犬の鳴き声も酷い、やばい所だと思っても、被告人や従業員の仕事に対する姿勢を見て、私もここに参加したい、役に立ちたいと思ったそうだ。犬を守るために「獣医師に頼むべき」という発言も一切なく、この非道な被告人や従業員の姿に感銘を受け、ひたすら虐待を手伝っていた。一体どんな神経なのか。このような人間が保護犬の里親とは嘆かわしい。被告への擁護が本気ならあまりにも愚かであるし、そうでないならこれも偽証と思わざるを得ない。

他にもいたメスを握った人間

その後、先日5月10日に行われた第4回公判も、尋問に先立ち証人の宣誓があった。私たちは、前回、前々回の証言内容に、辻褄の合わない虚偽を感じ、また驚き呆れていたから、今回もどうなのだろうと疑心暗鬼だった。今回の証人は、今から遡ること約13年前に退職した元従業員の男性で、これまでの証人と違い、検察官や弁護人の質問に対し、終始大きな声ではっきりと答え、その内容にブレがないように感じられた。が、今回の証人尋問も、私たちが知る由もない、現場で起きる身の毛もよだつ内容で非常にショックだった。

この元従業員が勤めていたのは、平成7年から平成22年の年末まで。アニマル桃太郎の専従スタッフになったのは、入社から9年後の平成16年から退職までの6年間だ。そもそも、私たちの認識では、無資格・無麻酔で帝王切開を行っていたのは、被告人と、2021年11月に被告人と同じタイミングで逮捕された元従業員の男(第2回目公判の証人)だけだと思っていた。前回の女性元従業員も、自分は道具の準備をしたり犬を括り付けたり、産まれた仔犬の面倒などの手伝いのみだと証言していたから。だが今回の元男性従業員は、平成16年から退職するまで専従スタッフとして、帝王切開の立ち合いをする中、辞める前の3年間は自分でも帝王切開をしていたと言ったのだ。しかも、行為者の名前として聞いたこともない名前が2つも語られた。被告人の他に4名もの人間が無資格・無麻酔帝王切開を行っていたのだろうか。

手術の方法は、何度聞いてもおおむね同じということで、陰部から緑色の水袋が出たり出血したり、体温が上昇してきたら、ケージの上にヒーターとボロきれを敷き、そこに犬の四肢を荷造り用の紐で大の字に動かないよう固定し腹を切って、仔犬を取り出したあと縫合する。文字にしたらたったこれだけのものだ。でもそこにはとてつもない痛みと恐怖が伴ったはずだ。証言では、メスで切った時、明らかに普段と違う声で鳴き叫び、鳴いて内臓が飛び出たこともあり手で戻したのだと。こんな血の気が引くようなまるで拷問のような殺傷行為が、年間300回とか400回、多い時で日に2匹も行われていた。狂気の沙汰としか言えない。

麻酔薬といわれていた薬剤は、懇意の間柄だった獣医師が世代交代で譲ってくれなくなったことで、平成19年の終わりから20年の頭以降は無麻酔だったと言う。それから事件が明るみになるまで無麻酔でやっていたというなら13年間もの長い期間になる。痛みで暴れ噛みつくから口輪をはめて毎回腹を割いていたそうだ。

人間はどこまで残酷になれるのだろう。同じ生身の体を持つ生き物の体を、いい大人が寄ってたかって「経費削減」のため「儲け」のために切り刻むのだ。

次回公判は、被告人質問だ。被告人はこの期に及んでも、帝王切開は母犬と仔犬の命を守るため緊急を要したためにやったとか、ぐったりしていたのは麻酔が効いてたからみだりに傷つけてないとか、死んだ犬は多くないし手術のレベルも上がっていたからと、無罪を主張するのだろうか。長きに渡り多くの犬に尋常ではない苦しみを与え続けた、日本の動物虐待史上最悪のこの事件について心底思うことは、被告人には厳しい罪を科し一生懺悔し罪を償うべき、ただそれだけだ。

実刑を求めるネット署名はこちらから(https://chng.it/GK4R6zKxDT

⇒無麻酔で帝王切開も…犬1000匹災害レベルの動物虐待 ペットブームの裏側で

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「杉本彩のEva通信」は、動物環境・福祉協会Eva代表理事の杉本彩さんとスタッフによるコラム。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。今回のEva通信は、杉本彩さんと、日頃ともに活動している松井事務局長の2人が執筆しました。  

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