社説:フリーランス法 権利保護につなげたい

 組織に雇われず個人として働くフリーランスを保護する新法が制定された。

 業務を委託する企業や団体に報酬額の明示などを義務付け、立場の弱いフリーランスが安心して働ける環境を整えるとしている。多様な働き方を支える一歩にしなければならない。

 フリーランスは自分の知識やスキルを活用して契約ごとに報酬を得る働き方だが、法令上の明確な定義はなかった。

 デジタル化の進展などに伴い働き方は多様化し、デザイナーや建設業などの「ひとり親方」、食事宅配サービスの配達員など幅広い分野にわたる。国の2020年調査で推計462万人に上り、うち本業214万人、副業248万人とされる。就業者全体の約7%を占め、少なくない数である。

 だが、最低賃金や就労時間規制といった労働法令が適用されず、下請法などの保護も限られる。このため、連合が昨年12月にフリーランスを対象に実施した調査では、半数近くが「仕事上でトラブルを経験した」と回答した。

 時間や場所に縛られずに働けるとされる一方、仕事の契約関係で立場が弱い。偽装請負や一方的に契約内容を変更されたり、報酬の支払いが遅れたりするトラブルに巻き込まれがちという。

 少子化で労働力不足が深刻化する中、働き方の選択肢が増えれば就労機会も広がる。取引や就労ルールの整備は急務であり、新法はようやくとの感が強い。

 新法は、フリーランスを「特定受託事業者」と位置付け、業務契約時に報酬や納期、仕事の範囲などの取引条件を書面やメールで示すよう企業側に義務付けた。発注した仕事の成果物を受け取ってから60日以内の報酬支払いを明記。育児や介護への配慮、セクハラ・パワハラ行為に対する相談体制の整備も義務化した。

 違反した場合、国は立ち入り検査や勧告、命令などができ、罰則を設けて実効性を高めるという。

 新法は来年秋までに施行されるが、詳細は今後、厚生労働省令などで定めるとされ、骨格ができたに過ぎない。働く人の側に立ち、取引企業に対する監視や指導を強化すべきである。

 とりわけインターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う「ギグワーカー」の保護が焦点だ。食事宅配の配達員などがその代表例であり、発注側の指揮、監督下で通常の労働者に近い。働き方の実態に即し、一層踏み込んだ安全網を整える必要があろう。

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