社説:防衛の財源法案 「砂上の楼閣」ではないのか

 こんな法案で「日本の防衛力を支える安定した財源の確保」ができるとは、到底思えない。

 政府は昨年末に閣議決定した安全保障関連3文書の改定で、防衛関連予算を2027年度に国内総生産(GDP)比2%まで「倍増」させ、5年で総額43兆円にするとした。

 27年度に見込む9兆円弱には、年4兆円程度の上積みが必要とし、国会に提出した防衛財源確保特別措置法案で「防衛力強化資金」の新設などを盛り込んだ。

 衆院では週明けにも採決する動きが出ているが、多くの疑問は全く解消されていない。

 安保の土台になる法案である。政府・与党は力押しで成立を急ぐべきではない。

 政府は4兆円程度を、増税(1兆円強)▽歳出改革(同)▽防衛力強化資金(0.9兆円)▽決算剰余金の活用(0.7兆円)―で捻出するという。

 財源特措法は、このうちの防衛力強化資金について、国有財産の売却益や特別会計の剰余金など「税外収入」を積み立てると定める。だが、売却益も剰余金も一度きりの手段に過ぎず、持続可能な財源とはいえない。

 歳出改革は、国会の政府答弁が抽象的で実現性が疑わしい。

 予算の使い残しである決算剰余金は、半分以上を国債(借金)返済に充てるのが財政法の決まりだ。一部は補正予算に用いられているが、恒常的な防衛財源とするのは、不測の要素が多く、場当たりに過ぎよう。

 唯一、確かな財源といえる防衛増税は今回の特措法案に入っていない。国民の反発を恐れ、自民党内に異論が強いからだ。

 だが、政府は昨年末の税制改正大綱で法人、所得、たばこの3税を27年度に向け段階的に上げると決めている。ならば法案に盛り込み、国会を通して国民に求めるのが筋ではないか。

 それどころか、自民内には予算の予備費の使い残しを防衛費に充てて、増税時期を遅らせる案まで浮上している。国会を通さずに内閣が自由に使えるため、近年膨張が著しい予備費である。財源の大半は国債であり、借金による軍事増強が戦禍を広げた先の大戦の教訓を踏まえれば、取るべき道ではない。

 財源確保の枠組みが「砂上の楼閣」のように、もろく、一時しのぎの寄せ集めであるがゆえ、奇策が飛び出すのだろう。

 そもそも防衛費倍増ありきで突き進んできた岸田文雄政権である。国会では、なぜそれだけ必要なのか、身の丈を超える軍拡が逆に国を衰退させないか、周辺国との衝突リスクを高めないかといった問いに、防衛機密を盾にほとんど答えていない。

 これでは国民の理解など得られようもあるまい。共同通信の世論調査でも防衛増税に約8割が反対し、9割近くが岸田氏の説明を「不十分」としている。

 政府には、未熟な法案の撤回と再考を求める。

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