社説:不適切な保育 氷山の一角、実態直視を

 保育園児の心身に悪影響を及ぼす「不適切な保育」が、全国で昨年4~12月に計914件確認された。国による初の実態調査で、うち90件は激しく揺さぶるなどの虐待に当たると自治体が判断した。

 園児の被害は外部から見えにくく、自分で訴えられないため発覚しづらい。行政が確認できるほどの案件は「氷山の一角」と重く受け止めねばなるまい。子どもの安全と人権が脅かされている。

 事案の徹底した調査と再発防止の取り組みを進め、安心して過ごすことのできる保育の環境づくりが求められる。

 調査は、静岡県の私立保育園で昨年末、園児を逆さづりにしたなどとして保育士3人が逮捕されたのを受けたものだ。脅迫的な言葉や乱暴な関わりについて市区町村が事実確認をしたのは計約1500件に上った。認定こども園などを含めると京都府は24件、滋賀県は27件あり、それぞれ11件と13件の不適切保育を確認したという。

 ただ、自治体ごとに件数のばらつきがあり、「不適切」の基準が不明確なため報告されていない事案が少なくないとみられる。

 4月発足のこども家庭庁は、再発防止へのガイドラインで「虐待等と疑われる事案」との考え方を示し、部屋から閉め出す、おむつを替えないなど具体例を挙げた。保育所で職員による虐待を把握した場合、自治体への通報を義務化する法改正も検討中という。これまで保育所と自治体の連携不足が指摘されており、情報共有や問題対応の態勢強化が不可欠だろう。

 問題の背景には、現場の保育士不足が横たわる。忙しさから手が回らず、職員研修さえままならない施設も多い。幼保無償化や待機児童の解消などで受け皿の「量」を優先させた一方、「質」の担保がなおざりだったのは否めない。

 保育士の配置は欧米に比べ手薄とされ、1人で4~5歳児を30人も見るという国の配置基準が70年以上変わっていない。

 政府は3月末にまとめた少子化対策試案に保育士配置の改善を掲げたが、基準自体は見直さず、手厚く増員した施設に運営費を加算するという。抜本的な人員と予算の拡充に及び腰では、「異次元」を掲げる施策の本気度が問われよう。

 市民団体が今年初めに行ったアンケートで、子育て中の親らが望む最優先施策は「保育士の待遇改善」が最多で、「児童手当の拡充」とともに8割を超えている。

 国と自治体は責任を持ち、保育の質の確保に手を尽くすべきだ。

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