古墳内部、素粒子で調査 茨城・東海村、J-PARCと小中高生

簡易装置で宇宙線を観察する子どもたち=東海村村松

茨城県東海村は、同村白方の世界最先端の実験施設「大強度陽子加速器施設」(J-PARC)と連携し、古墳内部を調査するプロジェクトを始める。物質を通り抜ける素粒子「ミュー粒子(ミューオン)」を使い、掘削せずに内部を調べる。東日本では初めて。専門家だけでなく、募集した小中高生と行うことで、地域独自の文理融合教育につながると期待する。

目に見えない宇宙線を見ようと、小中高生対象の体験講座が4月末、同村の村歴史と未来の交流館で開かれ、村内外から18人が参加した。

子どもたちは「アルファ粒子」を観察できる簡易装置を製作。透明容器に霧を人工的につくり、アルファ粒子が容器内を通ってできる白い筋が現れると、「見えた」と歓声を上げた。

水戸市立内原小5年の田中尊君は「普通は見えないものが見えて面白い。早くミューオン測定器を作ってみたい」、村立中丸小5年の深尾竪紀君は「理科も好きだが、考古学も勉強したい」と目を輝かせた。

講座は古墳と宇宙線を学ぼうと10月まで開かれる。併せて、本格的な古墳調査プロジェクトとして、小中高生を対象に約15人を募集(9月30日締め切り)、ミューオン測定器の製作を11月に始める予定だ。

考古学界では近年、史跡を掘削せず内部調査できる新たな手法として、ミューオンが注目される。

エジプトでは3月、クフ王のピラミッド内に通路のような空間が見つかったと発表され、多くの謎の解明が期待される。国内でも奈良県の春日古墳や岡山県の造山古墳などで調査が行われた。

こうした動きに着目した村は、村内に立地し、宇宙や物質、生命の起源を探る最先端のJ-PARCとの連携を検討。施設を運営するJ-PARCセンターに対し、ミューオンによる古墳調査を提案したところ、茨城大、東京都立大とともに行うことになった。村教委によると、こうした取り組みは東日本で初めて。

対象は同村村松の「舟塚古墳群2号墳」。全長75メートルの前方後円墳で、過去2回の調査で埴輪(はにわ)が出土しているが、内部の詳細は不明のまま。村教委生涯学習課は「埋葬施設の存在や位置を特定し、将来的な発掘調査の基礎資料にしたい」と期待する。

村は来年度までの2年間でミューオン測定器を二つ造り、2026年度までの3年間で古墳内を調査。内部の構造が分かれば27年度以降の発掘調査を目指す。

同プロジェクトは、測定器の製作や内部探査、発掘調査など、全ての過程を子どもたちと行う。地域一体型の新しい遺跡調査のモデルとして全国に発信したい考え。

村は文理融合教育と位置付ける。同課の中泉雄太学芸員は「文系、理系を問わず、多角的に学ぶことの楽しさを伝えたい」と強調。同センターの小林隆センター長は近年の理科離れの現状に触れ、「小さい時から科学に親しみ、興味関心を持つきっかけになってほしい」と期待する。

村は村内の研究機関との連携強化を目指す。同課は「最先端の研究を学びながら、村独自の文理融合や多分野連携教育を進めたい」とする。

★ミュー粒子(ミューオン)

物質の最小単位である素粒子の一つで、宇宙から無数に降り注ぐ宇宙線が大気に衝突して生じる。物質を通ると数が減るなどの特性を生かし、エックス線撮影のように物体内部の密度や形状を推定できる。事故を起こした東京電力福島第1原発の原子炉やエジプトのピラミッド、古墳の内部調査にも活用されている。

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