「1人の人間に立ち返って」G7首脳の被爆地・広島訪問 共同通信 太田編集委員に聞く

広島サミット初日の19日、核保有国を含むG7首脳が、そろって被爆地・広島市にある平和公園を訪れます。その意義について、共同通信社の編集委員・論説委員の 太田昌克 さんに聞きました。

共同通信社 編集委員・論説委員 太田昌克 さん
「わたし、1992年、振り出しが広島支局でして、けさ、ホテルの窓から平和公園が眼下に見下ろせまして、雨がたいへん、しとしと降っています。この雨を思いながら、お世話になった被爆者の恩人の多くの方々、今、こうやってわたしがこうやってみなさんの前でしゃべらせていただけるのも広島・長崎の被爆者のおかげだと思っています。その恩人のこれまでの訴え、広島の願い、これに応えるサミットであってほしいと思うんです」

「18日、羽田空港を飛び立つ前の岸田総理が、世界が歴史的な転換点を迎えている中でのサミットだというふうな言い方されました。わたしも全くその通りだと思うんですね。実は今、この瞬間も核の脅威というのは増大している。それは、ウクライナで続くロシアの侵略戦争に加え、北朝鮮、それから中国の核兵器の増産、そしてイランの核問題、中東もそうなんですけども、本当に眼下に核のリスクが今ほど高まったことは、1962年のキューバ危機以来のことだと思うんですね。そういった中で、広島で首脳が特に岸田さんが何を訴えるか、そして、核は絶対使っちゃいかんのだと。転換期とおっしゃるなら、ぜひ、核を絶対使わせない、不使用、核をなくなくす方向に転換していくそういうサミットにしてほしいです」

「だけど、わたしは全く逆だと思います。むしろ、実相を知って、こんなことが絶対に二度と人類、こんなこと引き起こしちゃいかんのだっていうことをやはりバイデンさんに知ってもらう。それがやはり、プーチンさんにも届くメッセージだと思います。ここが今回、原爆資料館の視察、これが大きなポイントだと思いますね」

― 初日のきょうのポイントは、どんなところにあるでしょうか?
「やはり、これから始まる原爆資料館の視察、ここが大きな、なんていうんですかね、試金石だというふうに見ております。岸田総理は、被爆の実相を知ってもらうことがそこが原点であるとおっしゃっているわけなんですよね。そこの原点を首脳たちが確認できるかどうかということですね」

「これまで実は日米間で水面下の議論がありまして、東京でも取材をしてきたんですが、少しアメリカが躊躇している。すなわち、オバマ大統領が2016年5月27日に広島にやってきて、(原爆資料館の)東館で被爆資料を数点見たわけなんですが、今のところ、ホワイトハウスは、『オバマさんが見た以上のことをやってくれるな』というふうにどうも日本政府に『“オバマ超え”はしないでくれ』っていうふうな、そういうメッセージを水面下で伝えているようですね」

「アメリカの今の安全保障の政策担当者たちが考えていることは、『今ほど、核抑止力が重要なときはないんだ』と。それは、ロシア・北朝鮮・中国を念頭に、特にロシアを念頭に置いているんですが、そういった中で被爆地に来ることが、アメリカの安保専門家等によりますと、『間違ったメッセージを送るかもしれない』と。すなわち、『核の抑止力弱体化のメッセージを送るんじゃないか』、そういう議論が実はあるんですね」

― 前回、原爆資料館の視察は、オバマ元大統領は10分程度でした。その後、演説を行っているんですけれども、平和公園の滞在時間も50分程度でした。
「ある総理の側近にこの週明け、取材したら、実は30分しか時間が取れないんだよと。本当は多くの被爆資料、できたら(原爆資料館の)本館も見てもらいたいんだけれども、さきほどのアメリカのそういった注文といいますか、そういったメッセージもある中で非常に苦慮していた。時間だけではなくて、中身、あそこに行って、1人の人間として何を感じるか、そこが全てだと思うんですね」

― 原爆資料館の東館から本館に行くのかどうかというところも1つ、ポイントだと思いますし、実際、映像はどこまで公開されるのかわかりませんけれども、中身がどうなのか。オバマ大統領のときには中身に関する一切の発表がなかっただけに今回もどうなのか。ぜひ、中身について伝えてほしいなと思うところですね。

共同通信社 編集委員・論説委員 太田昌克 さん
「わたしたち、人間なんですよね。78年前にあの原爆の火に焼かれた人間、いらっしゃるんですよ。死者が眠っているこの場所で何を感じるか。1人の人間として、人間性に立ち返る。その表情を本当、わたしたち見たいんですよね」

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