ウクライナから避難の医師、夫妻で避難民の健康相談スタート 伊丹の医療法人が就労支える

レクリエーションで手話に挑戦する(左から)アキモフ・アルテムさんとシュベロヴァ・オレシアさん=伊丹市荒牧6

 ロシアの侵攻を受け、兵庫県に避難したウクライナ人医師のアキモフ・アルテムさん(36)とシュベロヴァ・オレシアさん(27)夫妻=神戸市長田区=が、避難民を対象にした健康相談を始めた。2人の就労を支える伊丹市の医療法人が窓口になり、電話やメールで応じる。20日に先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の首脳声明でもウクライナへの支援が明記される中、夫妻は「助けてくれた日本の力になりたい」と前を向く。(久保田麻依子)

■日本に避難、2200人

 法務省によると、日本に避難しているウクライナ人は約2200人。侵攻から1年以上がたち、戦地でのトラウマ(心的外傷)や異国へ来たストレスによる不調を含め、健康状態の把握が課題となっている。また、母国で常用していた薬が手に入らなかったり、言葉が分からずに病院を探せなかったりと苦労は絶えない。

 夫は外科医、妻は内科医で、共にウクライナ東部ドネツク州の病院に勤務していた。侵攻後は、自宅近くの家々が破壊された。身の危険が迫り、アキモフさんの親類を頼って昨年10月に来日した。

 日本の医師免許は取得していないが、伊丹市の医療法人「星晶会」が兵庫県国際交流協会を通じて2人の就労を受け入れ、今年3月から週1日、高齢者施設のデイサービスで食事や介助を任せる。そこに県から相談があり、4月から避難民の健康相談事業として夫妻にウクライナ語で対応してもらうことにした。

 20日には、阪神間に避難している20代の女性が法人のクリニックを訪れた。複数の医療機関にかかったが症状が回復せず、健康相談を知って受診したという。夫妻は事前にメールでやりとりし、必要な検査を医師に助言して検査にも立ち会った。女性は「来日して、これほど安心したことはない」とホッとした表情を見せたという。

 将来的には、ウクライナから持参した薬が日本で調剤できるかどうかを確認したり、健康診断を実施したりすることも目指す。

■誠実に働く姿は周囲のモチベーションに

 アキモフさんとオレシアさんは、日本の医師免許取得を目指し、平日は日本語学校で猛勉強に励む。法人の医療スタッフとは翻訳機やジェスチャーでコミュニケーションをとっており、「学校では毎日テストもあって大変だし、ウクライナと日本は慣習や文化も違うが、歩み寄ることは難しくない」と話す。

 高齢者施設では、利用者たちがしりとりを楽しみ、それを覚えたての平仮名、片仮名でホワイトボードに書きとめる。高齢者にとっても脳トレになり、夫妻には日本語の練習になるという「いいとこ取り」のゲームとして互いに好評という。施設側も利用者の席札にふりがなを付け、館内に2人の自己紹介パネルを掲げるなどして、働きやすい環境を整えている。

 松本昭英理事長は「誠実に働く姿は周囲のモチベーションアップにもつながっている。医療に携わるわれわれだからこそ、戦禍から免れてきた2人を助けなくてはならないと考えている」と強調した。

 健康相談は毎週土曜午前9時半~11時半。健康診断は毎週土曜(要予約)。相談ダイヤルTEL080.5348.7728、メール(ウクライナ語可)=ukrainiansmedical@seishokai-gr.or.jp

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