トミカ、愛され販売7億台 1970年誕生、安全とリアル追求し3世代魅了 1番人気ははしご車、2位は…

1970年代のトミカ(左)と現在のもの。半世紀以上たつが、サイズなどは受け継がれている(©TOMY)

 タカラトミー(東京)のミニカー「トミカ」は1970年に誕生し、累計販売7億2500万台余り(2023年4月時点)、市場シェア85%以上(同社調べ)という国民的支持を得ている。4歳になったわが家の長男の愛情も当面、冷めそうにない。では最も売れた種類は? なぜ売れる? メーカー本社を訪ねると、「1位ははしご付消防車です」。小さな車体に、自らの生き方を重ねるこちらも熱い担当者が答えてくれた。

 人気トップ3は

 トミカ事業部企画開発課の遠藤勇希さん(51)。幼少期から夢中になって買い集めたトミカを「いつか自分でもつくってみたいと思った」のが入社動機の一つという。

 累計1140種超で、20年までに売れた第3位は「モリタ ポンプ消防車」(国内出荷実績213万台)、第2位は「コマツ ブルドーザ」(同308万台)。そして第1位は「日野はしご付消防車」(同407万台)だった。

 働く車が上位を占める理由は「イメージが長期間あまり変わらず、はやり廃りが小さい」から。

 消防車は長男も持っているが、はしごが外れやすいのが気になっていた。「あえて外れるようにして安全性を保っています。子どもって、ぎゅーっと握ったりするんですよね。その時にけがをしないように」

 ベストバランス

 現在の日野はしご付消防車は3代目だ。72年発売の初代以降、車体は時代とともに変化したが、はしごが伸縮する仕組みは変えていない。「50年余りいろんなチャレンジをしましたが『安全第一』は絶対」

 はしごに限らず、リアウイングのような大きな部品は軟らかい材料を使う。リアルを追求しつつ、アンテナやミラーのようなとがった部品は付けない。

 70年8月発売の第1弾はパトカーなど6種だった。数年後に製造され、タカラトミーに残る「トヨタ2000GT」などを見せてもらうと、半世紀も前の製品とは思えなかった。

 実物に忠実なデザイン、子どもの手のひらに収まるサイズ、ドアが開いたり屋根が外れたりするアクション、サスペンションのスムーズな走り-。

 「現在も当時と同じサイズです。遊びやすさ、持ち運びやすさ、集めやすさなど、トータルで考えてベストバランス。当時は相当、試行錯誤したのでは」

 車社会の縮図

 現在は常時150種を取りそろえ、毎月第3土曜に一部を新車と入れ替えている。商品化する車種は、どのように選ぶのか。

 「実社会の流行にリンクさせます。最近はハイブリッドカーが多いですが、その前はミニバンだったり、コンパクトカーだったり。車社会の時代の縮図です」

 08年には車体の全長を従来の2倍とした「ロングタイプトミカ」も投入した。長男のお気に入り「コベルコ オールテレーンクレーン KMG5220」は腕の部分が約27センチまで伸び、大人も圧倒される。

 一方で、77年発売の2階建て「ロンドンバス」は、カラーリングは変えたが、形はずっと同じ。「『2階建てバスといえば』と皆さんが反射的に思いつくイメージ」。本物の形が変わっても、そのままだ。

 遠藤さんらは本物の車のレースにも携わる。16年にネッツトヨタ兵庫(神戸市中央区)とチームを結成し、車体のデザインを担うほか、レースカーのオリジナルトミカを手がける。

 「ボロボロでも…」

 記者自身のトミカ歴は、小さい頃に何台かで遊んだ記憶が残る程度だった。しかし長男は100台超を集めた今も、収集意欲を高めている。最近は、架空の事故現場にパトカーや救急車が駆け付け、レッカー車が事故車を引っ張っていく-といったストーリー仕立てで遊んでいるらしい。

 遠藤さんはおもむろに1台を取り出した。

 「僕が4、5歳の頃に買ってもらった外国車シリーズの『ダッジコロネット カスタム ポリスカー』です。この仕事に就いてから、いつも持っている」

 初心を忘れないためか。「それもあります」と答えた後、照れくさそうに付け加えた。「40年以上たってボロボロになってもカッコいいし、まだ遊べる。自分も同じように、この先も頑張ろうと」。話す表情に、日本中で親子3世代に愛されるブランドに携わる喜びと誇り、責任感が漂った。(永見将人)

■精緻デザイン、感覚で再現「実物より『脳で見た姿』に」

 トミカといえば、子どもの手のひらサイズと、本物そっくりのデザインを両立させて支持される。タカラトミーの遠藤勇希さん(51)は「実物というより人が『脳で見た姿』、感覚をもとに再現している」と言い表す。

 人間が自動車を見る際、全体を一度に捉えることは難しい。結果、そのまま縮小すると、イメージと比べて細長く見えたり、別のデザインに映ったりが生じてしまうという。

 そこで、必ずしも本物ではなく、多くの人が本物を見て抱きがちな印象、いわゆる「脳で見た姿」に近づくように長さや幅、高さを調整している。

 計算式や特殊なソフトウエアは使わず、1台ごとに人間が考える。かつて木型を作って設計した時代も、コンピューター利用設計システム(CAD)を用いる現在も同じという。

 自動車のデータは、今でこそさまざまな方法で入手できる。しかし一昔前は、バスやトラック、消防車など大型車の屋根部分の確認が難しく、実物が通りそうな時間や場所を調べて、歩道橋の上などから撮影したこともあった。

 デザインの複雑さでドアを開閉させられない車は、後部ランプを塗装ではなく透明の部品に置き換えることも。本物に忠実を前提に「全車種に魅力を感じてもらえる仕掛けを施しています」と力を込める。(永見将人)

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