数百年前から続く集落の信仰拠点に存続危機…浄土真宗の門徒らが管理する「道場」、福井で今何が

上吉山集落で浄土真宗の教えを守り伝えてきた木吉道場=福井県福井市吉山町

 浄土真宗の門徒らの手で管理され、集落の信仰拠点となっている「道場」。過疎化で存続の危機にさらされているところもある。福井県の嶺北地域には200近くあるとされ、福井独自の宗教文化を育み、住民交流の場としても機能してきたが、福井市美山地区の山あいでは人口減少などで、数百年にわたって守られてきた道場の未来を描けないでいる。

 谷あいに10戸余りが軒を並べる旧美山町の上吉山集落(福井市吉山町)には、住民が静かに教えを守ってきた木吉道場がある。石山合戦(1570~80年)で織田信長と争った顕如上人を支援したとの言い伝えがあり、地元では顕如堂とも呼ばれる。建物内にはその功績から上人が贈ったと伝わる「帰命尽十方無碍光如来」の軸が大切に保管されている。

 毎月第3日曜に行っているおつとめでは、カセットテープの音声に合わせて住民が正信念仏偈を唱和、教えをつないでいる。道場を管理する1人の富田正明さん(86)は「子どものころは道場が遊び場であり、みんなでご飯を食べる場だった」と話す。

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 今でもおつとめを終えた後は、お茶やお菓子を囲みながら雑談する場となっており、前田まさみさん(62)は「世間話をして、変わりないか確かめる大切な時間。住民の心のよりどころ」と話す。

 10年ほど前に道場主がなくなり「道場をやめるか話し合ったこともあったが、先祖がずっと守ってきたものをなんとか続けたい」と話す富田さん。しかし年々住民は減り、自身も年を重ねる中で「将来はどうなっていくのか」という不安はぬぐえないという。

 5月11日、浄土真宗本願寺派福井教区布教団の一行12人が研修旅行の一環で同道場を見学した。本願寺福井別院の中村祐順輪番は「門徒さんの懇念で成り立つ道場は、仏教の原点」と感銘を受けた様子だった。

 県内の道場108カ所を取材し、成果を冊子にまとめた道場研究会の佐々木教幸住職(最勝寺)は「数多くの道場が残っているのは福井の信仰心の厚さの表れ。しかし、高齢化などで各地で存続の危機にある」と懸念する。福井特有の文化を広く伝え残そうと、同研究会では調査できていない道場の情報を求めている。

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