友禅流し、1日限り復活 「最後の職人」技伝授

友禅流しを行う荒木さん=2016年1月、金沢市東山1丁目の浅野川

  ●金沢・東山の浅野川 4日に初の研修会

 金沢市東山の浅野川で「友禅流し」が5年ぶりに1日限りで復活する。加賀友禅文化協会が6月4日、梅の橋付近で初めて研修会を開く。講師は東山唯一の職人として長年友禅に携わり、5年前に引退した元地染業の荒木順一さん(80)=同市東山3丁目=が務め、次世代の友禅作家に技術の粋を伝える。協会は、藩政期から続いた金沢の風物詩をよみがえらせるきっかけにしたい考えだ。

 友禅流しは、かつて浅野川の至る所で見られた。清流を利用して生地の糊(のり)や余分な染料を洗い流す作業で、加賀友禅制作の最終工程に当たる。他にも図案の作製、糊置き、地染めなどがある。

 生活様式の変化で着物の売り上げが減り、コロナ禍による追い打ちを受ける中、加賀友禅文化協会は友禅を作り続けるため、専門以外の工程も習得する必要があると研修会を企画した。

 自然の川は天候次第で水の流れが大きく変わり、状況に応じたノウハウが必要で、40~50代の加賀友禅作家、職人に事前準備の大切さ、川の流れのつくり方などを学んでもらう。

 浅野川で友禅流しを行っていた職人はバブル景気の崩壊とともに次々と廃業し、平成に入ると荒木さん一人となった。現在は地下水をくみ上げた人工の川で加賀友禅染色協同組合(金沢市専光寺町)が行っているだけだ。

 加賀友禅文化協会の中川聖士理事(58)は「本物の川」で技術を学んでほしいとし、「加賀友禅をもっと必要としてもらえるようアピールし、いつか懐かしの風景を取り戻したい」と話した。

  ●「流れ」つくる極意 80歳荒木さん、金沢の魅力に

 「毎日、川の状況に応じて(作業)場所を整えるんですよ、自分に都合の良いように」。研修会で講師を務める荒木さんは友禅流しの極意をこう明かし、必要な三つの条件として流れの強さ、川の深さ、川底の状態を挙げた。

 雨が降って川の水かさが増した場合、上手に大きめの石を並べて「堰(せき)」を設ければ、勢いが衰えてゆっくり流れる。場所の深さは30センチが理想的で、浅いと川底のヘドロが生地に付く恐れがある。周囲に針金のような突起物がないか、行く度にくまなく点検することも欠かせない。

 荒木さんは1976(昭和51)年に家業に入り、83年に父の急死で独り立ちした。バブル景気の頃は目が回る忙しさだった。毎日午前7時から浅野川に入り、午後9時まで作業場で染めた。弟子を取らず一人で5、6枚の着物を仕上げた。結婚式で着用される「黒留め袖」を専門に手掛けていた。

 荒木さんは、今の東山を歩く若者のレンタル着物姿に「友禅とは違う」と一抹の寂しさを覚えるも「和服に魅力を感じて将来、本物を着てほしい」と期待。「この仕事が少しずつでも復活し、金沢の魅力の一つになってくれたらいい」と願う。

 ★友禅流し かつて浅野川や犀川の随所で行われたが、1970年、人工の川を備える加賀友禅染色団地が建設されると、次第に見られなくなった。高度経済成長に伴い、透明な水が川底に沈殿したヘドロで濁ったことが背景にある。

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