社説:北の「衛星」発射 許されぬ身勝手な行為

 北朝鮮はきのう朝、「軍事偵察衛星」とする発射体を北西部から打ち上げた。

 エンジン点火に異常が生じ、朝鮮半島西方の黄海に墜落する「事故」が起きたとして、失敗だったとしている。

 「衛星」と称する打ち上げは、2016年以来だが、弾道ミサイル技術を用いた発射は、国連安全保障理事会の決議違反である。

 日本のみならず国際社会にとっても安全を脅かす行為であり、断じて容認できない。

 北朝鮮は事前に、5月31日午前0時から6月11日午前0時までの間に衛星を発射すると、海上保安庁に通告した。朝鮮半島西側2カ所とフィリピン東部1カ所の海上に危険区域を設けるとしていた。

 浜田靖一防衛相は、自衛隊法に基づき自衛隊にミサイル撃墜を命じる「破壊措置命令」を出し、日本に落下する場合には撃ち落とすよう命じていた。発射直後には、沖縄に全国瞬時警報システム(Jアラート)が一時発令された。

 迎撃は行われず、落下による被害も確認されていないが、各地に緊張が走った。許しがたい身勝手さである。

 北朝鮮は昨年12月、軍事偵察衛星の準備を4月までに終えると宣言し、先月には金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が、打ち上げを担当する「非常設衛星発射準備委員会」を現地視察していた。

 米韓の奇襲攻撃に備え、衛星による偵察能力の向上を攻撃に生かす「国家核兵器総合管理システム」の確立を急いでいるという。

 北朝鮮当局は「可能な限り早期に2回目の発射を断行する」としている。失敗も含めてミサイルなどの性能を試し、技術を向上させる可能性がある。政府は改めて強く自制を求めるべきだ。

 北朝鮮は、発射の日時を直接知らせる異例の対応を取ると同時に、外務次官が「日本が関係改善の活路を模索しようとするなら、両国が会えない理由はない」と、将来の日朝協議が可能と言及した。岸田文雄首相が首脳会談実現のために、高官協議を行いたいと述べたことを受けたとみられる。

 一方、韓国南部済州島沖で日米韓が参加した海上訓練に対し、米韓だけを非難した。3カ国の離間を狙っているとの見方もある。

 日米韓は、冷静かつ緊密に連携することが重要だ。北朝鮮の後ろ盾となっている中国への働きかけを含め、あらゆるチャンネルを探り、直接対話の糸口を見つける必要がある。

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