社説:長野4人殺害 全容解明と銃の対策を

 発生から1週間が経過したが、凄惨(せいさん)な事件の衝撃は続いている。なぜ起きたのか、防ぐ手だてはなかったのか。全容解明に力を尽くさなくてはならない。

 長野県中野市で高齢の女性2人が刺されて亡くなり、駆けつけた警察官2人が銃で撃たれて死亡した。自宅に立てこもった31歳男が殺人容疑で逮捕された。

 焦点は動機の解明である。容疑者は「(女性2人に)『独りぼっちだ』と悪く言われたので刺した」と供述しているという。凶器は殺傷力の高いサバイバルナイフとみられ、犯行には一定の計画性があったようだ。

 県警は一方的に憎悪の感情を募らせたとみている。女性との間にトラブルは確認されておらず、悪口は妄想だった可能性もある。

 容疑者は市議会議長の長男で、高校卒業後に県外の大学に進んだが、中退して地元に戻り、家業の農業を手伝っていた。

 警察官への発砲まで至った事件の特異さも目を向けたい。容疑者は「射殺されると思ったので警察官も殺した」と話している。

 刃物事案を想定し、警察官2人は防弾チョッキを着用していなかった。一つの事件で複数が殉職するのは1990年以来であり、重く受け止める必要がある。一刻を争う現場急行で常に重装備は難しくとも、警察官の命を守るための方策が求められよう。

 日本の銃規制は厳しいとされるが、容疑者は散弾銃など4丁を所持していた。猟友会の会員で、射撃場に通うこともあった。

 警察庁によると、昨年末現在で所持を許可された猟銃は15万728丁に上る。許可を得るには実技講習などが必要で、警察が使用目的を面接で聞き、申請者宅の近所に聞き込みをすることもある。

 事件が起こるたびに規制が強化され、申請には医師の診断書添付も義務づけられた。それでも銃を使った犯行は後を絶たない。

 所有者個人に管理を任せている点や、許可の在り方など、改めて見直すべきではないか。

 近年の凶悪事件の背景には、孤独や孤立の問題が指摘されることが多い。昨年、埼玉県で男が自宅に立てこもり、呼び出した担当医らを猟銃などで殺傷した事件も、介護を巡る孤立が背景にあったとみられている。

 今国会では孤独・孤立対策推進法が成立した。本人の精神状態とともに、こうした社会状況も踏まえ、犯行の経緯と背景をしっかり検証することが欠かせない。

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