「不幸な猫が増えてほしくない」 古民家移住者が取り組む「TNR」とは

「不幸な猫が増えてほしくない」と、猫の不妊、去勢手術の大切さを訴える野村さん(南丹市園部町)

 子猫が増えないよう、野良猫に不妊、去勢手術を受けさせる活動に、野村由紀さん(63)=京都府南丹市園部町=は力を入れる。野外で生まれた猫の多くはカラスに食べられたり、事故に遭ったりして悲しい末路をたどるためだ。「食べられるために生まれるなんて、余りにかわいそう。不幸な猫が増えてほしくない」と願う。

 大阪府摂津市出身。猫との出合いは30年ほど前、勤めていた茨木市の輸入車販売会社に並ぶベンツの下だった。野良猫が5匹の子を産んでいた。「もらわなければ死んでしまう」と考え、2匹を引き取った。「前はそれほど好きではなかったが、猫ってこんなにかわいいんだと思った。家のアイドルになった」と振り返る。

 不妊、去勢手術の大切さを痛感したのは20年近く前。家の近所にいた野良猫が産んだ6匹が病気を患い、やせ細り、苦しんで死んだ。母猫に餌を与えていた人に不妊、去勢手術を促していたが、聞き入れられなかった。「妊娠しなければ、つらい思いはしなかった」と悔やむ。

 田舎暮らしに興味があり、2011年に南丹市園部町に移り住んだ。築100年超の古民家で猫と過ごしつつ、これまでに40匹近くに手術を受けさせた。夜中まで捕獲に走り回り、手術費の多くを負担する。「捕獲」「不妊、去勢手術」「元の場所に戻す」という言葉の頭文字を取った「TNR」活動の重要性は少しずつ認識されてきてはいるが、「川に捨てればいいという物言いを聞く。理解の乏しい人はまだいる」と漏らす。

 同市は猫や犬に優しいまちを目指す「にゃんたん市プロジェクト」を始めた。TNRの啓発や手術費を補助する制度の充実、保護する人を寄付で支える仕組みづくりなどを期待したいという。「猫ブームに単純に乗っかるのではなく、保護活動に取り組む人の話を聞き、現場に足を運んでほしい」と求める。

 かけがえのない癒やしをくれるという猫。「少しでも猫の存在に目を向けてほしい」。猫に優しいまなざしが注がれる地域を目指す。

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