「6.3」32年

 〈眠りに就くあなたに、もっとちゃんとカバーを掛けてあげればよかった/ドアを出るあなたを呼び止めて抱きしめればよかった/喜びに満ちた声を上げる姿をビデオに撮っておいたらよかった〉-。最愛の息子を突然の事故で亡くした母親の嘆きは尽きない▲「最後だとわかっていたなら」という題名の詩がある。作者はノーマ・コーネット・マレックさんという米国人女性で、原題は「TOMORROW NEVER COMES」▲米中枢同時テロの追悼集会で朗読されたのをきっかけに、世界的に知られるようになった詩だ。数日前、この欄に「最後」は後にならないと分からない、と書きながら、この詩のことを思い出した▲「あした」は誰にも約束されていないから…詩人は静かに綴(つづ)る。微笑(ほほえ)みや抱擁やキスの時間を惜しまないで、大切な人への「ごめんね」や「ありがとう」や「気にしないで」は、どうか「きょう」のうちに-と▲病気や災害、テロや戦争…。私たちの「日常」が思ったほど丈夫にできていないことを繰り返し思い知らされている気がする。だから、忘れてはならないことは胸に刻み、憎むべき事態は強く憎み続けたい。予期せぬ「最後」を、できるだけ遠ざけておくために▲雲仙・普賢岳噴火災害の大火砕流惨事からきょうで32年。(智)

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