農業王国・南島原に危機 人手不足深刻で生産力低下 外国人労働者の獲得競争激化

南島原の農業を支える外国人労働者(手前)=南島原市加津佐町

 農業産出額の長崎県内シェア2位を誇る南島原市で、生産現場に負担が重くのしかかっている。慢性的な後継者不足に加えて外国人労働者の確保が厳しさを増し、ウクライナ情勢などを受けた肥料・燃料の高騰や円安…。生産者は「マンパワーが不足して生産力が上げられない」「このままの状況が続けば生産規模を縮小するか、最悪、離農も考えなくてはならない」と悲鳴を上げる。
 温暖な気候、島原半島の中央にそびえる普賢岳の度重なる火山活動から生まれた豊かな土壌と水が大きな恵みとなっている。農林水産省の2021年統計年報などによると、南島原市の農業産出額は約254億円。県内シェアは雲仙市(19%)に次ぐ2位(16%)。全国でもイチゴ5位、バレイショ6位、タマネギ13位など50位内にランクインする農作物(図参照)は計10種を誇る「農業王国」だ。
 生産現場にとって特定技能外国人や外国人技能実習生の確保は重要な課題。県内のJAや農家の要請を受け、2019年2月に県出資法人などが設立した外国人の人材派遣会社「エヌ」(平戸市)によると、今年1月以降、県内への派遣・就業者数はカンボジアとインドネシアからの計141人(24日現在)を確保した。
 南島原市に限定した数値はないが、島原市と南島原市を所管する島原公共職業安定所内の外国人労働者数(農業・林業)は19年度以降(コロナ禍の21年は除く)は300人台で推移している。そのうち特定技能外国人(農業)は20年度3人、21年度10人、22年度48人(長崎労働局調べ)と増加傾向。エヌの担当者は「コロナ明けで外国人の入国が比較的スムーズになった」と話す。
 ただ加津佐町の50代男性は「タマネギやジャガイモの定植から収穫の作業のため、昨年10月から今年5月まで同社を介して特定技能の女性3人を確保した。家族の生活を背負っているだけに懸命に働く。(高齢化率4割を超える)南島原で働き手の確保は難しい。彼女らがいなくなると立ちゆかなくなってしまう」と人手不足を嘆く。
 市内で働くカンボジア人のリ・リンオさん(27)は1歳になったばかりの長女のジュリちゃんら家族6人を残して来日した。「南島原の人は温かくて良い人ばかりだけど、(円安で)月20ドル近く手取りが減った。友達はよその国に行った」と働く側の近況を語る。
 09年から外国人を雇用している同市の農業生産・青果卸売業の40代男性は、昨年2月以降、円安の影響で、欧米やオーストラリアなど世界各国、国内他地域、同業種や他業種との人材獲得競争にさらされていると明かす。男性は「今期は繁忙期に5人なんとか雇用できたが、外国人もSNSなどで仲間と情報交換しており、最低賃金の高い雇用先を探している。(雇用確保のため)エヌのほか、熊本県の監理団体にも派遣を依頼しリスクを分散している」と話す。
 市農林課は「後継者不足や肥料高騰などは解決すべき重要課題。市独自の支援制度やトレーニングファーム事業などにより新規就農者確保を図っている」と取り組みを説明する。
 働き手をどう確保するか。昨年10月に始まった「南島原市みかん農業研修」の第1期生、百田貴大さん(36)=同市南有馬町=は「外国人労働者の確保は経済情勢に左右され、労働力の安定性に欠ける。根本的な解決にはならない」と指摘する。
 百田さんは、新規就農者を増やす方策として▽就農までの資金援助の拡充▽優良な土地の情報や仲介▽スマート農業など農業経営の効率化-などを挙げ、「生活費の負担軽減のほか農業機械や土地購入など一番の問題はお金。就農は起業と同じなのでお金の負担が減ればチャレンジしやすくなる」と提案する。

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