海と坂のまち塩屋に異様な老朽化ビル…築半世紀超、僕らの出発の場所「中セン」は今 神戸・垂水

ツタで覆われ、老朽化が目立つ「中野センター」=神戸市垂水区塩屋町9

 海と坂のまち、神戸市垂水区・塩屋。その中心部を歩くと、ツタで覆われた巨大なコンクリートが突如現れる。その名も「中野センター」。今でこそちょっぴり異様なたたずまいだが、かつては個人商店がひしめく商業施設だったらしい。そんな老朽化したビルを「にぎわい拠点として整備できないか」との思いから、住民グループが活用策を模索している。(井沢泰斗)

 住民や登記によると、中野センターは1960年代後半に建てられ、1~4階の延べ床面積は計約2千平方メートル。JR塩屋駅の北約700メートルに位置し、平成までにぎわいの中心だった。

 「自分にとって『中セン』は出発の場所。いまの状態を見たら、やるせない気持ちになるね」と話すのは駅前で約40年間、「田仲とうふ店」を営む田仲盛秀さん(73)だ。鹿児島県沖永良部島で生まれ、古里を離れて京都の豆腐店で修業。72年に縁あって中野センターで独立開業した。

 当時は1、2階に果物店や八百屋、精肉店、化粧品店など二十数店舗が営業していた。手伝ってくれた妹たちと必死に働き、お金をためて両親を呼び寄せることもできた。10年後に現在の場所に移ったが「中センがあったから神戸に来られたし、家族と一緒に暮らせた」と感謝の念は強い。 店舗減少、老朽化

 市場としてにぎわった1、2階。その上の3、4階は賃貸で、給湯器付きの風呂もある当時では最新のアパートだったという。地元・香川から仕事で神戸に移ってきた児島文子さん(73)=同市垂水区=は、友人と同居した2年間を懐かしむ。

 「市場で友達と買い物をしたり、食堂でご飯を食べたり。結婚して部屋を出てからも、子どもを連れてよく買い物に行きましたよ」

 だが市場全盛の時代は終わり、周辺には大型ショッピング施設もできた。平成に入る頃には徐々に店舗が減って老朽化し、近年は喫茶店が1軒営業するのみ。

 5年前には壊れた入り口の橋を住民の寄付金で補修したものの、地域の真ん中にそびえるビルは、安全面や景観面で地域の悩みの種になりつつあった。

 そこで2019年、住民でつくる「塩屋まちづくり推進会」が対応策を話し合い、町外に住む所有者も売却の意向を示していることから、住民が集える公共施設としての整備を市に提案した。

 市側は「具体的な活用の提案があれば検討を進めやすい」と回答。それを受けて同会はアイデアを募るアンケートを塩屋小学校区の全世帯に配布し、意見を集めている。既に児童館や図書館、交番といった案が寄せられているという。

 原田幸男会長(60)は「個人所有の建物だが、地域の中心で交通の要衝にも位置する。公共的な使い方で昔のにぎわいを取り戻せたら、というのが住民の願い。行政にも協力をお願いしたい」と話す。市まち再生推進課によると、中野センター周辺では都市計画道路の整備が検討されており、担当者は「地域の意向を確認しながら、拡幅と一体で検討を進めていきたい」と説明した。

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