介護食や嚥下食でもコース料理を 尼崎の女性が食事会、患者ら感動 「食べる喜びが生きる活力に」

食べやすさと見た目にこだわった嚥下食などの食事会を開く川端恵里さん(左)=尼崎市武庫元町1

 老化や病気などで食事をかんだりのみ込んだりすることが難しい人たち向けの食事会が、兵庫県尼崎市内で開かれている。ペースト状などにしてのみ込みやすくする「嚥下(えんげ)食」や「介護食」を、食べやすさはそのまま、味や見た目にこだわったコース料理にして提供。食事が困難ながん患者にも好評で、地域の住民や介護職員らが交流する場にもなっている。(村上貴浩)

 閑静な住宅街にあるレンタルスペース「町のつどい屋tata」(尼崎市武庫元町1)。炊き上がったご飯やニンニク、ゴボウ、タケノコといった旬の食材の香りが室内に広がる。

 食事会は、介護食や嚥下食の料理教室などを展開する「イートケアクリエイト」の代表、川端恵里さん(47)が開いた。川端さんは言語障害などの検査や援助をする言語聴覚士として病院や介護施設で長年勤務。患者にとっていかに食事が大切かに気付き、2022年8月に事業を立ち上げた。

 「全ての人に『食べられた』という成功体験をしてほしい。それが生きる活力にもつながる」。材料や調理法を工夫し、食べやすさと見栄えとの両立にこだわる。

 5月21日に開かれた食事会は、静岡県産の新茶でスタート。タケノコと木の芽のこくうま豆腐▽そら豆と新じゃがのやわらかコロッケ▽やわとろ親子丼▽新ごぼうの和風ポタージュ▽抹茶のプリン-などのメニューが並んだ。

 コロッケはジャガイモを通常より念入りにつぶして軟らかくし、目の細かいパン粉を使うことで喉の通りをよくした。ニンニクを使ったソースは食欲も増進させる。

 ポタージュは、季節の野菜である新ゴボウを使用。「硬い野菜なので嚥下食ではあまり使わないが、季節を感じてもらうためには必要」と川端さん。優しい喉ごしで、ゴボウ独特の土のような香りがしっかりと口の中に広がる。

 笑顔で食事を楽しんだのは尼崎市の男性(79)。77歳の時に口腔(こうくう)底がんを発症し、手術後に会話や食事が困難になった。自宅の食事はペースト状になった専用のレトルト食品や、湯でふやかした菓子パンが主で「食事の選択肢の少なさに飽きてしまった」と話す。

 長女(49)が交流サイト(SNS)で食事会を見つけて4月に参加し、見た目の美しさと味に感動した。「父が病気になってからは外食自体が難しかったので、このイベントを心待ちにしている」と話す。

 おいしそうにコロッケをほおばり、ゆっくりと味わう男性。川端さんに「来月も楽しみにしていてくださいね」と言われると大きくうなずき、小さな声で「ありがとう」と伝えた。

 川端さんは「食を中心に介護職員や地域住民など多くの人がつながり、まち全体で当事者を支えたい」と力を込めた。

 食事会は月1回のペースで開催する予定。食事会や料理教室の申し込みは、イートケアクリエイトのホームページから。

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