福井、石川、富山も参考になる?…津軽海峡を越えた新幹線戦略 青森と北海道で「マグロ女子会」が穴場ツアー

【グラフィックレコード】海峡越えた連携
6月に開くイベントに向けて海辺で打ち合わせする津軽海峡マグロ女子会のメンバー=5月7日、青森県むつ市大畑町

 東北新幹線の新青森駅から鉄道やバスを乗り継ぎ約3時間。青森県大間町は本州最北端にあり、津軽海峡を挟んだ対岸に北海道を望む。マグロ一本釣りの町として知られる漁師町だ。この町を中心に、ひと味違った小旅行を仕掛けるのが「津軽海峡マグロ女子会」。地域に根ざした視点で多様な企画を打ち出し、観光客を呼び込んでいる。

 5月上旬、大間町近くの海岸に「マグ女(じょ)」たちの姿があった。6月に予定する海岸のごみ拾いとヨガを組み合わせたイベントの打ち合わせだ。身近な環境をきれいにし、身も心も整えようという趣向で、ゆくゆくは定期開催し、旅行を通じて健康維持を図る「ヘルスツーリズム」のツアーとして確立したいと意気込む。

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 北陸新幹線が金沢に延伸した2015年。石川県・加賀温泉郷の女性の観光PRチーム「レディー・カガ」の取り組みが注目を集めていた。「秀逸なネーミングに一本取られたな。うちらも負けられね」。北海道新幹線新青森―新函館北斗開業を16年に控え、大間町でまちおこしに取り組んでいた島康子さん(57)の心に火が付いた。青森、北海道の仲間たちに声をかけ「マグ女」を結成した。

 活動の柱は、地元愛あふれるメンバーが案内役を務める小規模ツアー「マグ女のセイカン(青函)博覧会」。大間町でマグロのすしを堪能し漁の安全を祈る神社を散策したり、北海道最南端の松前町で松前藩にまつわる秘宝を鑑賞し郷土料理を味わったり…。地元住民だからこそ知る穴場を盛り込んでいるのが魅力だ。参加者は年々増え、海峡を越えてツアーをはしごする青函周遊の流れも生まれつつある。国も活動を評価し、17年に観光庁長官表彰、18年には内閣府「女性のチャレンジ賞」を受賞した。

 「新幹線が大動脈だとすれば、周辺の小さな町村は毛細血管。隅々まで血が行き届かないとエリア一帯が廃れていく」。島さんは東北新幹線、北海道新幹線延伸が古里を見つめ直す契機になったとし「開業効果を得たいというより、お客さんに来てもらうことで故郷を消滅させない、若い子たちに残していくんだという思いだった」と振り返る。コロナ禍で規模を縮小していた「博覧会」は、今秋から本格再開させる。

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 新青森―新函館北斗が開業すれば「経済的効果を函館に全部持っていかれる」。開業が近づく青森県内には悲観論が漂っていたという。「新幹線学」を研究する青森大学の櫛引素夫教授は、函館側と青森県側が手を携えて開業準備を進めた結果、青森にも有意義だという期待感が徐々に高まっていったと解説する。

 北陸新幹線県内延伸は北陸エリアに注目が集まる好機だ。北陸3県を舞台にした大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」の成功は、富山、石川両県と連携した発信や誘客戦略が鍵を握る。「隣町が死んで自分の町だけ生き残るなんてことはあり得ない。互いに競争し合い、尊敬し合いながら、それぞれの足元を磨き合っていくことが大事」と島さんはエールを送った。

若女将や公務員「マグ女」多彩な顔ぶれ

 青森県は、2016年の北海道新幹線新青森―新函館北斗間の開業を契機に、道南と一体で交流人口拡大を図る「λ(ラムダ)プロジェクト」を始動した。プロジェクト名は、新函館北斗駅から新青森駅を通って八戸駅に至る新幹線ルートと、新青森駅から弘前駅へのJR奥羽本線ルートの形をギリシャ文字の「λ」に見立てたことに由来する。

 照準を定めるのが北海道函館市の観光客だ。コロナ禍前には年間約480万人が訪れ、特に外国人宿泊客は約35万人と東北6県の合計に匹敵する。

 「津軽海峡マグロ女子会」も、新幹線で函館を訪れた観光客がフェリーで大間を訪れ、青森県内を巡る流れをつくることを目標にする。メンバーは約90人。北海道と青森県がほぼ半々で、温泉旅館の若女将、旅行会社や飲食店の経営者、公務員など顔ぶれは多彩だ。代表の島さんは、まちおこし会社も運営し、地域の特産物を生かした商品開発や旅行業、地域活性化に関わるコンサルティングを行っている。

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 2024年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。第3章のテーマは「新幹線が来たまち」です。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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