新幹線延伸で「全部持っていかれる」…動いた高校生たち 青森市の若者に見た「自分事」の意識

【グラフィックレコード】高校生のチャレンジ
商店主(左)と打ち合わせするクリエイトの大学生スタッフ=5月、青森県青森市

 2010年12月4日、東北新幹線が新青森駅まで全線開業した。前日夜には青森県青森市内の高校生約40人が中心街の広場で開業前夜祭を開き、クイズ大会やバンド演奏で開業ムードを演出した。輪の中心にいたのは、青森南高校3年だった久保田圭祐さん(30)だ。

 新青森の開業時、青森市内には「新函館北斗まで延伸する数年後には、にぎわいや経済効果は函館に全部持っていかれる」という空気が漂っていた。暗いムードを吹き飛ばそうと、立ち上がったのが久保田さんはじめ青森市内の若者たちだ。

 「青森には観光資源がないのではなく、市民が気づいていないのではないか。このままでは、新幹線延伸という千載一遇のチャンスを無駄にしてしまう。自分たちで市民の意識を高めればいい」。久保田さんは新青森開業1年前の高校2年生の時に、地域活性化を目的に任意団体「クリエイト」を立ち上げ、観光情報サイトの運営などを行った。

 14年にはNPO法人「あおもり若者プロジェクト クリエイト」として活動を拡大。大学卒業後、今は総務省に勤務する久保田さんが理事長を務め、まちづくり活動や地域を担う人材育成に取り組んでいる。

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 活動のメーンに据える「まち塾」は商店街を「学校」に見立てた高校生対象の通年型プログラムだ。「担任」を務める商店主、「副担任」の地元大学生、高校生数人がグループとなり、商店街の活性化やまちづくりにチャレンジしている。14年度の開始以来8年間で延べ約200人の高校生が参加した。

 青森市の中心商店街では、各店舗がお薦めの商品を1年かけて積極的に販売する「一店逸品運動」を高校生たちがアレンジした。自ら「語り部」となって各店の逸品を高校生に紹介するツアーを企画し、地元の埋もれた魅力に気づく機会にもなったという。

 久保田さんは「地域に飛び出すことの楽しさを高校生に感じてほしい。古里への愛着を持ち、将来にわたって地域の課題解決に貢献する人材を輩出したい」と語る。クリエイトはJR青森駅前の人工干潟「あおもり駅前ビーチ」を活用したイベントや、来年完成する青森市アリーナに関するワークショップを受託するなど、新幹線開業が引き起こした「若者のアクション」は10年以上続き、今やまちづくりに欠かせない存在になった。

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 福井県内でも、JR福井駅周辺をキャンパスに見立てた「ふくまち大学」が22年にスタート、地域活動に取り組む若者を支援する県の「エキセントリック・カレッジふくい」が始動した。若者たちが地元の魅力発信と活性化を目指して挑戦する姿は、青森の「クリエイト」と重なる。

 「新幹線開業という地域の歴史的出来事は企業、個人、団体が同じ方向を向くことができる、またとない機会になった」。一貫して主体性を重視してきた久保田さんは「三人称の提言より、一人称の実践。客観的に『こうすべき』と評論に徹するのでなく、課題を感じているんなら自ら動く。一人一人がまちを良くしようと行動することが大事」と力を込める。

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駅前ビーチ活性化も

 NPO法人「あおもり若者プロジェクト クリエイト」のメンバーは現在15人。青森市内の大学生9人、市内外の若手社会人6人で構成している。「まち塾」の運営など「地域づくりを通じた社会教育」が評価され、2016年度には「未来をつくる若者・オブ・ザ・イヤー」の内閣府特命担当大臣表彰を受賞した。

 クリエイトが運営の一翼を担う「あおもり駅前ビーチ」は、県がJR青森駅近くの青森港で整備した人工干潟で、21年夏に供用開始された。かつて青函連絡船が発着した海の玄関口に砂を敷き詰め、市民や観光客が親しめる浜辺をよみがえらせた。

 近くには、大型ねぶたを展示する観光施設「ねぶたの家 ワ・ラッセ」や、JR系の商業施設「A―FACTORY(エーファクトリー)」も立地し、青森駅前のベイエリアを盛り上げている。

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 2024年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。第3章のテーマは「新幹線が来たまち」です。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。

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