石川県金沢市が「独り勝ち」…海外の観光客になぜ人気? 北陸新幹線開業の経済効果は年間678億円

【グラフィックレコード】訪日客からも高い評価
古い町屋でてまり寿司作りを体験する訪日客=5月26日、石川県金沢市芳斉1丁目

 「とっても特別な体験」「なんてクリエーティブな料理だ」―。JR金沢駅(石川県金沢市)からほど近い築約100年の町屋で、オーストラリアやイギリスの3組6人の男女が自分たちで握ったてまり寿司をほおばった。ネタは金沢の台所、近江町市場で仕入れた新鮮な海産物や地元野菜。イギリスの高齢男性は「サムライエリア(長町武家屋敷跡)を楽しみに来た。金沢は京都に似てるけど、混んでないところがいいね」と上機嫌だった。

 体験ツアーを企画するのは金沢市のベンチャー企業「こはく」。京都市出身で商社勤務などの経験を経て、2018年に起業した山田滋彦社長(41)は「体感的には、金沢を訪れる訪日客は新型コロナウイルス流行前まで戻っている」と話す。19年度約千人だった体験ツアーの客数は23年度1500人程度になる見込み。円安を追い風に19年度約5千円だった客単価は倍以上だという。

■  ■  ■

 北陸新幹線金沢駅は15年3月に終着駅として開業。以降、金沢市やその周辺エリアを訪れる観光客数は毎年1千万人を超え、金沢市内ではホテル建設が相次いだ。同市観光調査によると、市内の22年の宿泊施設数は14年比3.7倍の411軒、客室数は同1.6倍の1万3778室にまで増えた。日本政策投資銀行が16年末に推計した、新幹線開業による石川県内への経済波及効果は年間678億円にも上る。

 コロナ流行前の19年の金沢市の宿泊客343万人のうち、61万3千人は外国人。開業した15年と19年を比較した宿泊客全体の増加率は約1.2倍なのに対し、外国人客は約2.4倍だ。滞在先で消費する金額は国内客より訪日客の方が多いとされ、「金沢独り勝ち」とも言われる観光の活況は外国人が下支えしている。国・地域の傾向をみると、欧米豪が34.3%と最も多く、日本全体の17.8%を大きく上回る。

■  ■  ■

 金沢市中心部にある金沢駅や兼六園、東西の茶屋街、近江町市場、21世紀美術館などの主要観光スポットは徒歩圏内でつながっている。フランスで個人旅行を販売する旅行会社「ボヤージョ・デュ・モンド」日本支店の畠山美佳マネージャーは「金沢は古い建築や工芸といった伝統に加えて現代アートも楽しめ、コンパクトにまとまっている。いろんな趣味のフランス人を満足させられる」と話す。

 さらに訪日客に絶大な人気を誇る岐阜県の白川郷や飛騨高山には、高速バスで片道1時間半~2時間でアクセス可能。金沢駅東口のバス停には毎便、大きなトランクやリュックサックを携えた外国人の列ができている。金沢は、東京から京都に移動するまでの“中継宿泊地”として利便性が高いという側面もある。

 こはくの山田社長は「訪日客の金沢滞在は1.5日~2日程度。金沢での滞在時間を延ばし、まちにお金を落としてもらうためにやるべきことはまだまだある」と言葉に力を込めた。

 ×  ×  ×

 2024年春の北陸新幹線県内開業を契機とした新時代の福井のあり方を探る長期連載「シンフクイケン」。第3章のテーマは「新幹線が来たまち」です。連載へのご意見やご感想を「ふくい特報班」LINEにお寄せください。「新幹線が来たまち」は今、どうなってる?連載記事一覧

【1】賑わうコンテナ…小さく始めた駅前開発/新潟県上越市

【2】JRが温泉宿を新築、特産の嬉野茶を前面に/佐賀県嬉野市

【3】新高岡と高岡、1.5キロ離れた二つの駅の現在地/富山県高岡市

【4】人口4千人足らの町、道の駅が大人気/北海道木古内町

【5】福井、石川、富山も参考になる?…津軽海峡を越えた新幹線戦略/青森県・北海道

【6】新幹線延伸で「全部持っていかれる」…動いた高校生たち/青森県青森市

© 株式会社福井新聞社