社説:NHK違反予算 業務拡大、前のめりでは

 コンプライアンス(法令順守)の欠如は看過できない。

 NHKの2023年度予算に未認可のインターネット配信業務に絡む不適切な経費がこっそり盛り込まれていた問題だ。規則に反した業務拡大に前のめりな姿勢は、受信料で運営される公共放送として許されない。

 問題の経費は、総務相が認可したインターネット活用業務基準で認められていない衛星放送のBS番組を動画配信サービス「NHKプラス」に加えるための約9億円。前田晃伸前会長時代の昨年12月、理事会を経ずに一部役員の稟議(りんぎ)で設備調達を決め、予算に計上していた。

 放送法上、NHKの本来業務はあくまで放送であり、ネット配信は補助的な業務に過ぎない。業務基準でネット配信できる範囲は地上波の番組に限られている。

 なぜ理事会に諮ることなく、最高意思決定機関である経営委員会にも説明しなかったのか。適切な手続きを逸脱して予算化するとはルール軽視も甚だしい。

 NHK予算は放送法に基づき総務相に提出され、国会で承認を得る必要がある。チェック機能が働かなかったとも言えよう。

 予算の国会承認後、放送法に抵触する恐れがあるとしてNHK内部で問題化し、稲葉延雄会長が調査を指示して予算執行を停止。稲葉氏はおととい、参院総務委員会で「公共放送のガバナンス上あってはならないことだ」と陳謝し、当時の役員の処分にも言及した。

 テレビ離れが進む中、NHKが番組を放送と同時にネットにも流す常時同時配信といった事業拡充を急ぐ姿勢が背景にある。来年3月の衛星放送の1波削減をにらんで、将来的なBS番組のネット配信への布石とみられる。

 対外的に説明をせず、水面下でネット業務の拡大を進めようとしていたのではないか。

 NHKのネット事業を巡り、総務省の有識者会議で本来業務とするかどうかの議論が続いている。

 だが、放送業務で得た受信料収入を資金にしてネット事業を肥大化させるやり方に民放などから批判が強まっている。NHKが無制限にネット事業を広げれば、民業圧迫にもなりかねず、受信料を負担する視聴者の理解は得られまい。

 NHKは弁護士などで構成する検討会を設置し、意思決定の改革に着手する方針だ。なぜ誤った形で決裁されたのか、徹底的に問題点を洗い出して公表し、組織の体質を改めねばならない。信頼回復への道のりは険しい。

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