社説:少子化対策決定 不実な首相の財源説明

 国民に向け「追加負担を生じさせない」とした岸田文雄首相の言葉を、いったいどれだけの人が信じただろうか。

 政府が「次元の異なる少子化対策」の方針を決めた。

 所得制限を撤廃し、対象を高校生までとした児童手当拡充や、子育て支援サービスの拡充、男性の育休取得率引き上げなど「共働き・共育て」推進を盛り込んだ。

 岸田氏は記者会見で、来年の通常国会に関連法案を提出し、児童手当拡充は同年10月分から行うと表明した。

 問題なのは、政策に必要な「3兆円台半ば」とする財源をどう確保するか、あいまいにしたことだ。結論は年末に先送りした。

 政府は社会保険料に「支援金」を上乗せするが、保険料の伸びは歳出改革で相殺すると説明する。しかし上乗せ総額や、医療・介護といった社会保障費の何を削減するのかは明らかにしていない。サービスを抑制すれば、現役世代にもしわ寄せは及ぶ。

 そもそも政府は防衛財源も、歳出改革で1兆円強を絞り出すとしてきた。安定財源とはいえず、その場しのぎの方便とも映る。

 具体的なのは、将来の負担となる「つなぎ国債」で不足分を穴埋めする方針だけである。

 受益だけを明示し、負担の全体像は伏せながら、岸田氏は「財源の先送りとの指摘は適切ではない」と主張した。不誠実の極みというほかあるまい。

 育児中の人や子育てを見据える世代にとって、本当に利益の方が大きいのか判然としない。これで安心して、子どもを産み育てようと思う人が増えるだろうか。施策の継続性も危うい。将来の不安が増すだけではないか。

 対策の中身自体、迫力を欠く。高所得者にも児童手当を満額支給する一方、少子化の大きな要因とされる結婚や出産をためらう低所得層への支援は薄い。

 これにより、どんな効果を見込むのか。急激に進む人口減少はどの程度緩やかにできるのか。将来像が一向に見えてこない。

 岸田氏は、防衛費「倍増」に向けた増税の実施時期も先送りするという。負担増を棚上げした先には、衆院の解散・総選挙を見据えているとされる。結局、票目当ての「ばらまき」なのか。

 少子化の歯止めは容易ではない。子育てを社会全体で支える持続的な仕組みをつくり、消費税なども含め負担を分かち合う議論こそ求めたい。

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