去年秋に広島市北部の集落で撮影されたシカの映像があります。この集落は、広島土砂災害の被災地で、若者たちのグループが休耕地の再生にあたっています。ことしも畑を荒らすシカとの戦いが始まりました。
標高およそ350メートル、広島市安佐北区大林町桧山地区―。9年前の広島土砂災害の被災地です。グループ「ふるさと楽舎」は、5年前からここで休耕地を再生しています。
先週末、県内3つの大学から学生ボランティアが参加して、バス通り沿いの畑にヒマワリの苗などを植えました。
学生ボランティア
「大学生活って、割と授業とかの繰り返しなので、こういう活動したら『あっ、生きてるな!』みたいな」
ふるさと楽舎 馬場田真一 プロジェクトリーダー
「見て楽しいっていう街づくりの一環をやってみようかなと。さらにプラスアルファで、そこにハチミツが来れば、なお、おいしいと」
その最大の敵が、シカです。
被害を受けた農家
「ここを歩いてから、ここから入って、あそこを食べて…」
桧山地区では今、複数の農家で田んぼにシカが侵入し、イネの苗が食べられる被害が相次いでいます。
被害を受けた農家
「いや、去年もちょっとは入ったけど、ここまで毎日来るのはないよね」
この日のミーティングもシカ対策から始まりました。
ふるさと楽舎 馬場田真一 プロジェクトリーダー
「今回、守ろうとするところ(畑)は、去年のサイズの半分くらいにした。去年は大きく欲張りすぎてシカに侵入されたので、今回は5重の電気柵をして…」
シカ対策の電気柵です。
馬場田真一 プロジェクトリーダー
「シカが入ろうとした時にシカのボディに、例えば鼻だとか、またごうとして足に当たったときに電気が流れて、痛い思いをする」
しかし、万全ではありません。去年も設置したのですが…
馬場田真一 プロジェクトリーダー
「あっという間にこの状態、首だけにされて。きのうまではちゃんと葉っぱがあって大きくなりおったんですけど」
畑の中に侵入したシカー。侵入した原因は、電気柵のワイヤに伸びた雑草が触れて漏電したためとみられます。
ことしは、▽ワイヤの下に雑草を防ぐシートを敷きました。
また、▽畑の面積を半分に減らして、ワイヤの段数を増やしました。
さらに、▽サツマイモなど野菜の苗は金属製の鉄柵で囲み、2重の守りにしました。去年、鉄柵の中の作物は無事だったからです。
馬場田真一 プロジェクトリーダー
― ずいぶん金がかかる?
「そうなんですよ。採算ベースでいえば絶対、合わない」
― どなたか、スポンサーを…
ふるさと楽舎の主な活動はコメ作りです。ことしも先月、関係者が集まって田植えをしました。
2年前からは収穫したコメで地域の酒「大林千年」を造り、活動費の一部をまかなっています。その活動は去年、地域づくりのモデルとして国から表彰されました。
先週末の夜、グループは、地域の子どもたちに声をかけ、ホタルの観察会を開きました。
参加した小学生
「けっこうまぶしかった。きれいだなと思いました」
実は、ホタルを観察した場所は、耕作放棄地でシカたちの “すみ家” です。
夜の食事では学生たちのためにシカ肉が用意されました。
学生ボランティア
「赤身が多いです」
馬場田さんが、冬に仕掛けたワナにかかったものです。
学生ボランティアたち
「筋肉質でおいしいですね」
「初めて食べたんですけど、おいしいです」
― ふつうに店で頼んで出てきたら食える?
「食べます」
― それはうれしい。
ふるさと楽舎 馬場田真一 プロジェクトリーダー
― ジビエとしてどうか?
「売ろうと思うとハードルが…。野生肉なので、ちょっとしんどいところはありますけど、資源とみたら『あり』かなとは思います」
試行錯誤の活動…、キーワードは “資源” です。
馬場田真一 プロジェクトリーダー
「目の前に見えている、ちょっと密になった林というか、森というか、このままだとよくはないけど、手を入れれば資源っていう考え方もとれると思うので。わたしには資源の山に見えます」
この日、植えた花や野菜の苗は、休耕地という資源をどう変えてくれるのか? ことしもシカとの戦い、スタートです。
― ふるさと楽舎では、20アールでコメ作りを、15アールで花・野菜の栽培に取り組んでいます。ことしは今のところ、シカの被害は出ていないということです。
― メンバーはそれぞれ仕事を持っていますが、休耕地再生の活動を広げるために3年後のビジネス化を目指しています。すでに始めている酒の製造のほか、地域の資源を活用した新商品の開発などに試みています。