「自分の影響なければ生きていたかも」 京アニ放火事件 遺族が抱いた悲しみや自責

渡邊美希子さんが関わった「たまこまーけっと」のポスターを飾り、講演する母達子さん(左)と兄勇さん=15日、京都市南区のホテル

 京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)で起きた放火殺人事件で犠牲になった渡邊美希子さん=当時(35)=の母と兄が15日、犯罪被害者支援に関わる関係者約170人を前に南区のホテルで講演した。悲しみを抱えて過ごしてきたからこそ「こんな事件を二度と繰り返さないよう、誰もが自信を持って生きていける社会になってほしい」と願った。

 母の達子さん(72)は冒頭、遺族として支援を受けてきたことに感謝の気持ちを表し、「娘から『お母さん、ちゃんとお礼を言ったの』と言われていたような気がしていたから」と述べた。演台のそばに、美希子さんが美術監督を務めた京アニ作品「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」のパネルを置き、柔らかな表情で語り始めた。

 2019年7月18日、ニュースを見て現場は「あの子が仕事をしている場所だ」と知り、連絡を取ろうとしても携帯電話はつながらず、いてもたってもいられず京都府宇治市の京アニ本社へ向かったという。

 当時の火災の映像を見るのは今でも苦しいといい、「あの子も、あの子の仲間も、あそこにいたんだと思い出し、とてもつらくなる」と達子さん。事件や事故で子どもを亡くした遺族のつらさについて、「これほど、しんどいものなのかと感じた」と話し、「優しい人が多くいれば、嫌なことが起こらない。社会に温かい空気感が必要だと思う」と願いを込めた。

 兄の勇さん(44)は「優しい妹だった。何も悪いことをしていないのになんで彼女が、という思いだった」と言葉を紡いだ。自身もアニメ好きで、美希子さんと本を共有することもあったが故に、「自分の影響がなければ、彼女はまだ生きていたのでは」と自らを責めたという。

 事件から約半年後、原因不明の発熱に苦しめられたが、被害者支援で勧められたカウンセリングに助けられたといい、「家族にも話せない思いを打ち明けることができ、不安から解放された」と話した。

 この日の講演は、遺族の立場で思いを発信することで、少しでも悲しみの少ない社会になればと引き受けたという。二度と同じような事件が起こらないよう、「自分のことだけでなく、孤独な人に『大丈夫』と誰かが声をかけるような、配慮や心遣いのある社会を」と訴えかけた。

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