武器を扱う組織で起きてはならない事態が現実となった。
岐阜市の陸上自衛隊射撃場で、訓練中だった自衛官候補生の男が、他の隊員に向け自動小銃を発射した。2人が死亡し、1人が重傷を負った。
捜査関係者によると、死亡した52歳の教官を狙って男が撃ったとみられ、この教官にしかられた旨の供述をしているという。
陸自は、全国の部隊に射撃訓練の中止と安全管理の徹底などを指示した。
近くには民家も立ち並び、多くの国民を震撼させた。
どういう経緯で銃撃が行われたのか。警察との合同捜査で原因を究明し、銃の取り扱いや訓練の在り方を徹底的に検証すべきだ。
男は今年4月の入隊後、基礎的訓練を今月末に修了して部隊に配属される予定だった。
小銃は、入隊時にそれぞれ貸与され、分解や組み立て、射撃動作などを繰り返し、安全な撃ち方を覚える。全5回の射撃訓練のうち、実弾を使う4回の最後の検定日だったという。
陸自幹部は「決められた通りやっていれば事故は起きない」とする一方で、他の標的に向けて発射すれば「防ぐのは不可能」と認める。
教官に向けての発砲は、訓練や指導、人間関係を巡る不満やトラブルの可能性が浮かぶ。
入隊から間もなく、隊員の規律と訓練環境に慣れる途上の時期に、実弾の射撃訓練を行う妥当性を含め、改めて検討する必要があるのではないか。
自衛官候補生は18歳以上で、3カ月の訓練を経て任期制自衛官となる仕組みだ。防衛省は隊員確保策として、資格取得などで任期後の就職が有利になるとアピールしている。
2018年に募集年齢の上限を33歳未満まで引き上げたが、21年度の全国の採用数は計5350人と計画の86%にとどまっている。
陸自では、4月に沖縄県宮古島付近でヘリコプターが墜落し、計10人が死亡する事故が起きた。昨年は女性隊員への性暴力が大きな問題となり、組織内のハラスメントを巡る不祥事が相次いでいる。
政府は、防衛力の抜本的強化を掲げて防衛費を倍増させ、23年度から5年間で総額約43兆円を投じる方針を示している。
いくら装備を充実させても、運用するのは隊員だ。その体制や能力を欠き、国民の信を得られないのでは危うい。