社説:認知症基本法 理解と支援を広げたい

 認知症の当事者や家族が暮らしやすい社会へ、弾みにしたい。

 認知症施策の充実を図るため、認知症基本法が成立した。

 脳の病である認知症は2025年には700万人に達する見込みで、65歳以上の2割、85歳以上は4割が患うとされる。急速な高齢化と表裏の国民病といえよう。

 認知症基本法は、超党派の議員連盟が2年間の議論でまとめた。それ以前に自民、公明の両党案が提出されたが、法の目的として「認知症予防の推進」を掲げたことに、当事者から「努力不足で認知症になったとの偏見を招く」との懸念が上がり、廃案になった。

 認知症は、食事や運動などで一定予防できる脳血管型に対し、約7割を占めるとされるアルツハイマー型は、発症原因が十分解明されておらず、治療も予防も確立していない。野党が加わった議連では当事者らとの議論を通し、目的からは「予防」の文言を削除することで合意した。

 こうした経緯をみても、認知症を巡る誤解や思い込みは社会に少なくないことが明らかだ。

 基本法は「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らす施策を総合的に推進する」と目的に明示。国民の責務として「共生社会実現への寄与」を打ち出した。

 それには認知症への正しい理解を広げることが欠かせない。

 認知症は、記憶が抜け落ちるといった中核症状に対し、それに伴う混乱が招く周辺症状(徘徊(はいかい)や妄想、暴言など)は適切な介護で落ち着くことが多い。早期発見により、進行を遅らせる薬が効果を上げることもある。「何もわからなくなった人」ではない。

 周囲がそうした認識を共有し、当事者ができることを生かしつつ、その人らしい暮らしを支えることが鍵になろう。

 そのため、基本法は国に基本計画策定を求め、自治体にも地域計画づくりを努力義務とした。そこに当事者や家族の意見を聞いて反映することも要請している。

 京都では、府や京都市、関係団体などが連携し、13年に全国初の認知症対策計画(京都式オレンジプラン)を作っている。当事者目線を組み込んだ先駆的な試みで、10年間に多様な活動が生まれた。

 これを主導し、基本法作成にも関わった「認知症の人と家族の会」(京都市上京区)は、「法は大きな一歩」と評価する。

 基本法を超高齢社会の礎として生かし、負担増と給付抑制が続く介護保険は充実を図りたい。

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