故郷は「短命県」、雇用と健康で恩返し バリューHR(東証プライム)・藤田社長(青森県弘前市出身)

青森県の健康寿命延伸に向けての意欲を語る藤田氏

 「相手が喜ぶことを常に感じながら仕事を継続してきたことで今がある」。健康管理サービス会社「バリューHR」(本社東京)の藤田美智雄社長(63)=青森県弘前市出身=がビジネスに向き合う姿勢だ。

 「学生時代は勉強が性に合わず、自分に投資するのが面倒だった」と笑うものの、社会人になってからは「人のために尽くすことが結果的に自分に返ってきている」と語る。同社は健康保険組合の設立支援や運営、企業や健保組合による健康管理情報のデジタル化サービスなどを手がける。

 かつて米国系会計事務所の人事・総務部門にいた藤田さんは、経験を買われ他の事業所から健保組合設立の業務を依頼され準備に奔走した。ようやく国の認可を得る見通しが立つと今度は、運営経験のある人がいなかった。思い切って会社を辞め、健保組合運営を受託するバリュー社を発足させた。41歳だった。

 思わぬ形で安定したサラリーマン生活に見切りを付けた藤田さん。以前から「先行投資はしない。お金が先に出るのはビジネスとして良くない」と考えていた。幸い健保組合の運営は基本的に委託料が先払いで低リスクだった。「無一文からの出発」とはいえ「不安はあまりなかった」。業績を着実に伸ばしてきた。

 4人で発足した従業員はグループ企業を含めて現在700人を超える。2013年には青森県出身者が経営する企業としては数少ない東証上場を果たした。同社が開発した健康管理システムのユーザー数は現在、184万人・385法人で22年12月期は過去最高の売上高、各種利益を更新する増収増益となった。

 今春には経済産業省から従業員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に取り組む「健康経営銘柄」として3度目の選定。同銘柄は他にトヨタ、三井物産、など有名企業48社が並ぶ。

 中央で実績を積む一方、藤田さんは「恩返ししたい」と古里への思い入れも強い。データセンターなど弘前市内につくった同社の拠点は現在三つ、従業員数は250人に上る。

 自身、糖尿病からの腎臓疾患を克服した経験もあり「短命県」の青森県の動向を気にする。「生活習慣を変えていかなければいけない。『気付き』と改善のプログラムを提供し、フォローする体制へのアプローチが弱い」と言う。

 有言実行。同社は昨夏、弘前大、東京海上ホールディングスとともに共同研究による「健康寿命延伸学講座」を開設。「岩木健康増進プロジェクト」健診のビッグデータを基に、健康寿命延伸や働き方改革につながる顧客サービスの提供を目指している。

 頻繁に地元へ足を運ぶ藤田さんは「何をおいても桜まつり。そしてお岩木山。地元の料理もおいしい」と笑う。市が委嘱したひろさき産業振興サポーターでもあり「弘前でネットビジネスを活発にさせたい。マーケットは無限にある」と夢を描く。

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 <ふじた・みちお 1960年弘前市生まれ。弘前第三中学校、東奥義塾高、国際商科大(現東京国際大)卒業後、会計事務所や証券会社、監査法人などを経て2001年にバリューHRを設立。同社は13年に東証ジャスダック市場に上場(現在は東証プライム市場)>

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