ALS嘱託殺人事件公判「死にたいと思う一方、生きるために最大限の努力」女性の主治医が証言

京都地裁

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者から依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人などの罪に問われた元医師の山本直樹被告(46)=医師免許取り消し=の公判が21日、京都地裁(川上宏裁判長)であった。当時の女性の主治医が出廷し、「(女性は)死にたいと思う一方で、生きるために最大限の努力をしていた」と証言した。

 証人尋問によると、主治医はALS患者の林優里(ゆり)さん=当時(51)=を2012年5月から7年以上にわたって支えてきた。林さんは当初、つえを使って歩いて通院できていたが、早い段階で在宅診療に切り替わり、一日の大半をベッドで過ごすようになった。それ以降の病状は安定していたという。

 事件前の林さんの病状について、主治医は「呼吸状態はとてもよかった。今すぐに亡くなる状態ではなかった」と説明。最後に診察した前日も、「異常な所見はなかった」とした。さらに、林さんの死因となった薬物は「処方薬に含まれるものではなかった」と述べた。

 一方、生前の林さんの様子にも触れ、「早く死にたいという願望は最初からあった」と明かした。ただ、薬や治験に関する最新情報をインターネットで懸命に集めていた姿を見て、「(林さんは)より多く生きたいと思っていた」と実感を込めた。

 林さんからは胃ろうによる栄養摂取の中止を提案されたり、別の診療所に移る紹介状を書くよう求められたりしたこともあったという。主治医は「ALSで死を思わない人はいない。死にたいと生きたいを行き来しながら生活している」とし、「ヘルパーらは24時間献身的に支えてきた」と振り返った。

 起訴状によると、医師の大久保愉一(よしかず)被告(45)と共謀し19年11月30日、京都市中京区の林さんの自宅マンションで、林さんから頼まれ、胃にチューブで栄養を送る「胃ろう」から薬物を投与し、急性薬物中毒で死亡させたとしている。

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