大逆転

 「伏兵」はもともと〈敵が来るのを待ち伏せして不意を襲う戦術やそのための兵・軍勢〉-をいう言葉で、競馬のダークホースや下位打線の殊勲打など“想定外”の誰かの活躍に使う用法は、後に転じて加わったらしい▲そんな言葉を改めて辞書で引きたくなったり、「落とし穴」は思いもよらない場所にあるから落とし穴なのかな…と考えたり。火曜日に指された将棋の王座戦挑戦者決定トーナメント、藤井聡太七冠の思わぬ苦戦が話題に▲相手・村田顕弘六段の独創的な序盤構想が功を奏したのか、徐々に不利に陥った七冠。人工知能(AI)の形勢判断は一時「相手勝勢」を示すところまで数値が大きく傾いた。そこからの大逆転。最後は長手数の詰み手順を見事読み切った▲するりと逃げていった村田六段の大金星。昼食休憩の時点で苦しかった、ダメにしたと思っていました…と七冠は早くから非勢を自覚していたことを感想戦で明かした▲一度に1手ずつしか指せないのだから、相手のミスがなければ将棋の「大逆転」は生まれない。そのミスを意図的に誘っているのか、相手が思わず間違えるのか、不思議な終盤術▲夢の“全冠ロード”は続いている。休む間もなく、きょうは佐々木大地七段=対馬市出身=が藤井さんに挑む棋聖戦五番勝負の第2局。(智)

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