青森・深浦町の米軍F16タンク投棄事故 米軍、根本原因は非公表 防衛省が県に報告

三村知事(左)と丸井議長(手前)にタンク投棄の概要を説明する市川局長(右)=22日、県庁
深浦町中心部で見つかった燃料タンクの一部分。米軍関係者が4人がかりで撤去した=2021年12月1日
市川局長(右)から報告を受ける深浦町の吉田町長(中)と斉藤登町議会議長=22日、深浦町役場

 2021年11月に米軍三沢基地所属のF16戦闘機1機にトラブルが発生し、青森県深浦町の民家近くに燃料タンクを投棄した問題で、防衛省東北防衛局の市川道夫局長は22日、米軍側から聞き取った事故の経緯について、県庁で三村申吾知事と丸井裕県議会議長に報告した。投棄した理由はエンジンの油圧が急激に低下したためとしているが、根本的な原因は機体の性能に関わるとし、米軍側は明らかにしなかった。市川局長も「やむを得ない」とした。

 同省は事故後、米軍と情報のやりとりを続け、準備が整ったとして、今回のタイミングでの報告となった。市川局長の冒頭説明を除き、非公開で行った。

 報道陣の取材に応じた市川局長によると、米軍は事故の再発防止を目的に安全調査委員会を設置。調査委の報告書は原則非公表だが、今回の事故を巡っては地元に伝えることが必要として、同省が可能な限り米軍から聞き取った。

 米軍調査委は、操縦士の対応は定められた手順に従い適切だったとし、「航空機墜落という地元住民に対する壊滅的なリスクを軽減できた」と主張。操縦士がタンクを投棄した際、飛行方向の延長線上に人口密集地はなく、落下地点はタンク内の残燃料などにより明確な予測は困難だったとした。一方、タンクが居住地区に落下したことには遺憾の意を示した。

 市川局長は、米軍が原因を非公表としたことはやむを得ないとの認識を示した。また、事故当日の地元への説明が事故から3時間以上後になったことについては「米側との連携を日頃から心がけ改善する努力をしたい」と話した。深浦町が行った、燃料が染み込んだ土壌処理費用など約860万円に関しては、防衛省で補償するとした。

 三村知事は報道陣に対し「(報告まで)随分時間があったが、米軍が遺憾の意を表明することはなかなかない」とし、「民家がないところを選ぶなど、リスクを少なくする努力は確認できた。再発防止に万全を期してほしい」と述べた。

 市川局長は同日、深浦町の吉田満町長にも報告した。

 事故は21年11月30日午後6時ごろ、F162機が三沢基地を離陸して演習に向かう途中、1機にエンジンの油圧低下を示す警告が出たため、操縦士がタンク2個を切り離して同町内に投棄し青森空港に緊急着陸した。タンクは町役場近くの町有地と、約700メートル離れたスギ林に落下。人的被害はなかったが、町有地と住宅の距離はわずか約20メートルだった。

▼「再発防止 徹底を」 深浦、三沢住民

 2021年11月に米軍三沢基地所属のF16戦闘機が深浦町の民家近くに燃料タンクを投棄した問題で、東北防衛局によって米側の調査結果の一部が明らかになった22日、同町や基地がある三沢市からは再発防止徹底を求める声が聞かれた。

 町役場で東北防衛局の市川道夫局長から報告を受けた吉田満町長は報道陣の取材に「墜落という最悪の事態を避けるため、手順に沿って適切に対応したということだが、町にとって住宅地に(タンクが)落ちたことは遺憾」と強調。「今後とも訓練飛行区域内にある深浦ということは意識しなければならない。『2度と』とはもう言いたくない。今後とも安全飛行に努めてほしい」と注文した。

 投棄現場近くに住む住民はあらためて憤りをあらわに。主婦岡田友美さん(50)は「手順に従って適切だったと言われても、納得いかない。ちょっとずれていたら、国道の真ん中だったかもしれないし、海に落ちて漁業に影響が出たかもしれない」。整骨院経営の葛西清さん(64)は「2度と事故がないようにということに尽きる。人口密集地を避けたとは言うが、国道沿いの住宅地に落ちたのは大変なこと。あってはならない」と話した。

 米軍三沢基地のある三沢市では、調査結果の公表が約1年7カ月と長期間を要したことに不満の声が上がった。市議会基地対策特別委員会の小比類巻雅彦委員長は「(米軍の)対応は遅すぎ。しかも簡単な報告で終わってしまった」と配られた3ページの資料を手に批判。「国は毅然(きぜん)とした態度で米軍と対峙(たいじ)するべき」と強い口調で話した。

 今年2月、青森県太平洋沖でも基地所属機による燃料タンク投棄事故が発生。基地周辺町内連合会の種市光雄会長は、定期的にこうした事故が起きていることを挙げ「これが当たり前になっては困る。事態がエスカレートしていくのが怖い」と不安を打ち明けた。

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