心打たれる芝居を多くの人に 大衆演劇場を造った辻静男さん 練習や発表会、気軽に利用を 諫早市

自ら造った大衆演劇場の舞台前に立つ辻さん=諫早市森山町、演劇カラオケ「やまびこの里」

 大衆演劇好きが高じて、長崎県諫早市森山町の緑豊かな山中に、念願の大衆演劇場を自ら造った男性がいる。
 辻静男さん(76)。約30年前に知人から、所有する山を譲りたいと相談されたことをきっかけに、約4千平方メートルの敷地をこつこつと開拓。仲間と気軽にお酒を楽しめる場所をつくろうと、2008年に焼き肉店をオープンさせ、本業の水道設備業と二足のわらじで営業を始めた。
 大衆演劇に出会ったのはその頃。友人の紹介で来店した演歌歌手、えひめ憲一さんの歌声にほれ込み、後援会スタッフとして活動を始めた。その中で訪れた大分県で、人情味豊かな大衆演劇に魅了された。南島原市のホテル内にある劇場などに通い詰め、「人に喜ばれる場所をつくりたい」「公演後、自分も役者と一緒に客を盛大に見送りたい」と思いを募らせた。
 「やりたいことはやる」のが性分。本業で培った建築技術や知識を生かし、劇場だけでなく、自宅や仲間たちが泊まることができる別棟の建物などもすべて基礎から造った。たった1人で始めた工事も、約10人の仲間が交代で手伝ってくれるようになった。
 今年の春、ようやく大衆演劇場が完成した。古民家や寺などに使われていた建具などを譲り受け、どこか懐かしい、レトロな雰囲気に仕上げた。焼き肉店と棟続きで劇場の延べ床面積は約200平方メートル。幅5メートル、奥行き4メートルの舞台は、周囲に民家がないため防音設備は不要。「大ホールのようによく響く」という音響は自慢だ。

周囲に民家がない静かな環境が自慢

 4月初旬には全国で活動する大衆演劇団「えん家」や、えひめ憲一さんを迎え、こけら落とし公演を開催した。「感無量と言いたいところですが、実際は不具合を直すなどの雑用に追われ、念願かなったうれしさを、かみしめる時間はなかった」と辻さんは振り返る。
 予算の都合もあり、次の公演は未定。定期開催を目標に、当面は演劇カラオケ「やまびこの里」として、焼き肉店と合わせて営業する。
 「大衆演劇は心打たれる芝居が多いのが魅力。劇場として多くの人に喜んでもらえるよう、企業対抗のカラオケ大会などを企画し、費用面の課題を解決していきたい。演劇の練習、発表会などにも気軽に利用してもらえれば」
 辻さんは熱いまなざしで舞台を見詰めた。

© 株式会社長崎新聞社